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ホタル


ニューヨーク・スタッテンアイランドの一戸建ての家を4人でシェアしたことがある。
4LDKの間取りだった。勝手口を出ると木製のテラスになっていて、隣の空き地の草むらを見渡すことが出来た。そこに椅子を出して話をしたり、読書をしたり、酒を飲んだり。時にはテーブルを出して食事をしたり。あまりの心地良さに眠り込んでしまったり・・


ある晩のことだ、夕涼みがてらテラスにいると目の前の草むらの中に小さな炎が見えた。それも一箇所ではなく辺り一面に広がっている。「あれ?火事かな」と思い慌てて草むらに下りた。火を消そうとしたがなかなか消えない。不思議なことに煙も臭いもない。
「おや?」僕は顔を近づけてみた。やがて小さな炎の正体が判明した。それはホタルだった。ホッとするとなんだか感動が込み上げて来た。自分の家でホタルが観れるなんて。マンハッタンからフェリーで30分、家の周りには確かに自然が残っていてリスなどの小動物もよく見かける。でも、このホタルたちはどこで成育するのだろうか?きれいな水場があるのだろうか?

そんな疑問を持ちながらも、その風景はやがてすんなりと僕の日常に溶け込んでいった。その夏、ホタルを観ながら何度となく缶ビールを開けた。僕の好きなゆったりとした時間があのテラスには流れていた。


2005年7月記



今日の一枚
”テラス” アメリカ・ニューヨーク・スタッテンアイランド 1995年


1 腐れ縁のまち  自分であることの証 その3




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