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赤耳


東京の酷暑に比べたらニューヨークの夏なんてかわいいものだ。もちろん真夏には35℃を超える日もあるし湿度も高い。しかし、東京のようにそれが2ヶ月続くようなことはない。暑さのピークは7月下旬から8月上旬にかけてのせいぜい2週間ほどだ。しいて言えば、梅雨がない分夏は前に長いような気がする。春からいきなり夏になる感じだ。そして、9月のある日突然秋がやって来る。

地球温暖化が進む今、これももしかしたら単なる僕の思い込みに過ぎないのかもしれない。けれども東京もNYも夏が暑いということには異論はないだろう。
そして、ニューヨークの代表的な夏の風景として僕が思い浮かべるのは水の噴き出た消火栓だ。誰がいつそんなことを始めたのか、どんな工具で開けるのかわからないが、消火栓が本来の使われ方とは全く違った形で役立っていることだけは確かだ。

日本だったらすぐに社会問題視され、簡単に開けられない消火栓が登場するかもしれない。しかし、そこはアメリカ。米国社会の大らかさとか柔軟さがプラスに働いた数少ない例だと思う。そして、この消火栓はあたりを散々水浸しにした後、再び誰かの手によってきちんと栓が締められる。


ある夏の午後のこと。道を歩いていると水を噴出している消火栓に出会った。その隣には母子連れ。母親が子供の手を取って消火栓に導く。おそるおそる小さな手が噴き出す水の中に入った。その瞬間キラッと水飛沫が上がり、夕日に透けた子供の耳が真っ赤に燃えた。


2005年7月記



今日の一枚
”赤耳” アメリカ・ニューヨーク 1992年




fumikatz osada photographie