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一本のベルトの上で


今回はエストニアで僕が初めて出会ったスポーツを2つ紹介しよう。


一つ目は「カイトサーフィン」。サーフボードに乗ったままパラシュートで風を受けて水上を滑走するもの。ウインドサーフィンとパラセイリングをミックスしたものと言えば解り易いか。原理は単純だが道具は大掛りで、バイクのハンドルのようなものを握り上空のパラシュートを操作する。もちろん足はボードに固定されている。上空の風はウインドサーフィンの比ではないから難しい。めでたく風を捕まえることができれば、白波を切りながらものすごいスピードで水上を滑走する。あっという間に海岸線を数百メートル進む。海水浴客やサーファーがいるような場所ではできないから場所を選びそうだ。カイトサーフィンはラトビアでも見たからあるいは既に一定の競技人口がいるのかもしれない。


二つ目は「ロープバランシング(スラックライン)」。夕暮れの公園の大木にロープを張ってひたすら綱渡りの練習をしている人を見かけた。パフォーマーか、はたまたサーカスの団員か?と興味深く見学させてもらった。ロープだと思っていたのは幅10センチほどのベルトだった。素材は・・・そう、消防車のホースみたいなもの。地上高1メートルくらいの位置にピンと張られ両端は木の幹にグルグルと括りつけられている。ん?もしかしてこれは綱渡り専用のベルト?聞いてみるとこれ、れっきとしたスポーツなんだとか。彼はサーカスの団員ではなく、このスポーツの愛好家で毎日数時間この公園で練習しているそうだ。「やってみます?」いやいや、こんなゆらゆらと動くベルトの上に乗ることさえできない。技を試みては落ちの連続だから彼の腕は傷だらけ。ベルトが硬くて角が当たると擦れるのだ。「このロープバランシング(スラックライン)はスポーツっす。この動画を見てください」とスマホの画面を指差す。す、凄い、幅10センチのベルトの上で自在にジャンプし空中回転してる。張られたベルトには伸縮性があるから時にはこのようにトランポリンのように使い、またあるときにはベルトを平均台のように硬いものとして扱う。このスポーツ意外に奥が深いかも。


自分が知っている綱渡りといえば、1970年代に110階建てのNYワールドトレードセンターの二つのビルにワイヤーを張って渡ったり、インドで花瓶を頭に乗っけてロープを渡るパフォーマンスである。あちらは長い棒を持ってやじろべえのようにバランスを取っていた。「ああ、ワールドトレードセンターの映画は俺も見たっす。あっちはタイトロープウォーキングっていうパフォーマンスアートっす」なるほど、同じ綱渡りでもパフォーマンスになったりスポーツになったりするわけだ。いずれにせよ難易度が高く危険なことには変わりない。実際、ベルト上で空中回転するような技の練習には落下したときの安全が確保された施設が必要で、そのような施設は少なくとも200キロ離れた街に行かないとないのだそうだ。ロープバランシングの競技人口はエストニアではまだ少なく、専用の道具もイタリアからの輸入品だと話していた。


世の中にはまだまだ僕の知らないスポーツがあるんだなあ。しかし、ロープバランシングは木が2本とベルトが一本があればできるのだ。今はマイナーでも将来的に市民権を得る可能性だってある。いずれにせよ、人々が「スポーツ」として新しいことを探求できるというのは、その社会が自由で比較的豊かである証しなのかもしれない。



2016年10月記



今日の一枚
” ロープバランシング ” エストニア・パルヌー 2016年




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