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エストニアって


キフヌ島が続いたので今回はエストニアについて。キフヌの話から想像するとエストニア人は牧歌的な生活をしていると思われるかもしれない。しかし実はこの国、IT先進国なんだそうだ。実際に街を歩いてみると、カフェやレストランのみならずバスの中、公園にまでWi-Fiの電波が飛んでいる。クレジットカード社会で人々が現金で買い物をする姿をあまり見かけない。公共サービスもかなりの部分がオンライン化されている。ただし、エストニアのIT化はここ10年ぐらいに急速に進んだようで、年配の人たちは街角のバスチケットの予約端末をものめずらしそうに見ていたりする。いや解ります、その気持ち。僕も窓口派なもので・・・


エストニアは環境に対する意識も非常に高い。街も公園も浜辺も清掃が行き届いている。おそらく「美しい森と湖と手付かずの海岸線」にゴミを捨てようとは誰も思わないだろうけれど。至るところにゴミ箱が設置されている。分別回収も徹底している。だから、街は整然としていて生活の匂いや都会の危うさはあまり感じない。刺激はないけど居心地はいいのだ。エストニアが中高年の旅行者に人気がある理由はその辺りか。

物価は北欧に比べると大分安い。西欧に比べると安い。日本と比べるとやや安い程度だが、サービスの内容や内容量などを加味すると安い。
(以前、ここでEUに対する収支から加盟国中「中の上」と書きましたが、EUに対するエストニアの経済的貢献額はまだ数%程度だそうです。おわび訂正します)
1991年に第二次世界大戦後のソ連の支配から独立を回復。2004年にEU加盟後に急速に経済が伸びた。その後もなだらかに成長している。一方、僕はロンドンに出稼ぎに行くこの国の若者たちのドキュメントを見たことがある。英国がEUから離脱した後はどうするのだろうか?何よりエストニアって今でも出稼ぎが必要な国なんだろうか?


国民の約30%はロシア系なのだそうだ。しかし旧ソ連、社会主義の匂いなど全くしない。ロシア語をあまり聞かないことや、ロシア語の表示を目にしないことが大きく影響しているのかもしれない。この点はラトビアやウクライナとは決定的に違う。ベルリン辺りだと復古調「ソビエト・カフェ」がファッションとして成り立っているが、エストニアの場合はそんな時代は早く忘れたいという雰囲気すら感じる。
エストニア語はフィンランド語と日本語とハンガリー語に似ているそうだ。フィンランド語に関しては双方の言葉を知らない僕としては判定のしようがない。日本語とは文法の品詞の並び順が似ている。音のクリアなところも似ているのかな。それよりエストニアの地名ってアイヌ語源の地名に似ているんだよなぁ。隣国ですらないハンガリー語に関してはエストニア人自身が不思議だといっていた。単なる偶然だろうか?
顔について。エストニアの人の顔はロシア人とフィンランド人の要素が引っ張り合いっこをしている(笑)あくまで個人の印象です。


ここまで読んでお気づきかと思うがエストニアはフィンランドに近い。風土といい、人といい、木造住宅といい、サウナの文化といい、お隣フィンランドとかなりの部分を共有している。だから「エストニアってどんな国?」と尋ねられればおそらく僕は手っ取り早く「フィンランドみたいな国」と答えるだろう。まあ、僕はフィンランドに行ったことがないのだけれど(笑)
事実、エストニア自体お隣のフィンランドをお手本にしている節がある。いいお手本だ。間違った方向に導かれることはない気がする。しかし同時にかなりハイレベルな教科書だ。


おしまいに建築の話を少し。エストニアは古い町並みがきちんと残っている。まあ、古いといっても伝統的な木造家屋もあればタルトゥのようにロシア時代に作られた石の建築物もある。しかし、いずれにせよきちんと改修されて保存されているのだ。ペンキで塗り替えられた木造家屋を見て「綺麗なお宅ですね」と主人に話しかけると「どうもありがとう」と自慢げに微笑んでいた。
もう1つはモダンで尖がったデザイン。エストニアのすばらしいところは建築はかならず周りとの調和を考えて建てられているところである。日本のように古いものの隣に無神経に奇抜な近代建築を建ててカオスに陥らない。古い家屋とと新しい建物を別の地域に作ったり、新旧でギャップのないデザインを取り入れている。この辺はかなり徹底している。
伝統的な木造建築を何軒も見たあとで今回最も強く印象に残ったのは、パルヌという街の海岸に建つ「ヘドン・スパ&ホテル」のモダンな建築だ。良く見ると建築は折れ曲がった「く」の字の線の線対称と平行移動で面構成され、その間を無数の柱でうめている。奇抜なデザインなのだけれど海岸線の緑とは不思議と干渉しあっていない。



2016年7月記



今日の一枚
” ヘドン・ホテル ” エストニア・パルヌ 2016年




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