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バルサの10番は誰でも知っている


日本で開催されていたサッカーのクラブワールドカップはF.C.バルセロナの優勝で幕を閉じた。バルサは素人目にもパスの速さとかトラップの正確さといった基本的な部分がしっかりトレーニングされていた。クラブチームのあうんの呼吸とも相まって実に安定したサッカーだった。4位のアジア代表、中国・広州恒大は元イタリア代表監督やブラジル代表、中国代表といったいわばスター軍団で今やアジアでは押しも押されぬナンバー1クラブである。ACL( アジアチャンピオンズリーグ)ではJリーグ勢が苦渋を飲まされ続けている大きな壁だ。そのアジアの雄に一発勝負とはいえ勝ったのだからCWC開催地枠のサンフィレッチェ広島は善戦した。ただ、3位4位のアジア勢よりもやはり南米代表リバープレート(アルゼンチン)は一段レベルが違ったし、ヨーロッパ代表のバルセロナ(スペイン)はさらにもう2段くらい上だった。世界にはとてつもないサッカークラブがあるもんだ。


一方、今年の我が浦和レッズといえば、早々と4月にACL予選リーグで敗退。先月末のJリーグCS(チャンピオンシップ)準決勝でもガンバ大阪に破れて、早やリーグ戦を終えた。相変わらずここ一番で勝てないレッズを見せ付けられサポーターとしてはテンション急降下でした。
それでも行きましたよその準決勝に。ところが大事な一戦なのにスタンドには空席が目立つ。聞けば今年から導入されたJリーグの2シーズン制とCSに反対したサポーターがチケット購入をボイコットしたそうな。相変わらず浦和のサポーターは頑固だ。でもそこが魅力か。まあ、応援したい人はスタジアムに行き、ボイコットしたい人はすればよい。何も行った人を罵ることもなければ、自分の意見を曲げずに行かなかったものを軽蔑する必要もない。
でもね、延長の末にガンバ大阪に破れ、年間2位だった順位が3位になっちゃったんですよ、チクショウめ!


というわけで僕もこの2ステージ制とシーズン後のCSには反対である。CSの日程、組み合わせが直前までわからない。1年を通してのクラブの実力が正当に評価されない。この辺が理由だ。
結果的に今シーズンのJリーグ全体の観客動員数は微増したのだそうだ。山場をいくつも作って興行的に盛り上げようとしたJリーグの目論みはある程度当たったということか。しかし、こんな小手先だけの方法でJリーグ人気V字回復とはいかないだろう。「スタジアムに来てください」といっても、新規のお客さんが果たして気軽にスタジアムに行くだろうか?家族4人ならば最も安い指定席で1万円だ。ならばテレビで・・とはいってもJリーグの中継は昔に比べて極端に少なくなった。全試合中継するのはJリーグと放映権契約を結んだ有料放送だけ。Jリーグとやらを見てみようというお客さんが果たしていきなり有料放送の契約をするだろうか?結局、主催者は打ち上げ花火的な興行と年間数億という放映権料に目がくらんで、とても大切な「Jリーグファンの裾野を広げる」というところを見落としてしまっている。つまり、目に触れ易いメディアに乗せてアピールしないと一向にパイは大きくならないということ。 地域に密着するのがJリーグの是ならばホームゲームくらいはローカルのテレビ局に格安で放映権を譲る必要があるのでは。それを取っ掛かりとしてアウェイの試合を含んだ残りの試合を見たければ有料放送と契約してもらえばよいし、スタジアムで観戦したくなったらチケットを買ってもらえばよい。


イランの田舎町。道路で少年がサッカーをしている。身に着けているのはF.C.バルセロナのユニフォーム。外国人に興味を示し僕の方に寄ってくる。「はははぁバルサか。何番だい?」少年はくるりと後ろを向き背中を見せる。「背番号10。メッシ」少年は得意げにうなずく。世界中どこでもサッカーに興味のある人ならバルサの背番号10が誰だか知っている。ところが「浦和の背番号8が誰か?」なんて下手をすれば埼玉スタジアムを一歩出たら誰も知らない。
それでは、なぜイランの小さな町の少年がバルサの10番を知っているか?おそらく、バルセロナの試合をテレビで見る機会があるからだろう。逆に言えば、どんなにすばらしい名選手でもサッカーファンがその試合にアクセスすることがなければ一生無名のまま埋もれてしまうだろう。こうしてアクセスの敷居を低くすることによってファンは世界中に広がる。(もちろんクラブが強くなければいけないけど)ファン母数が大きくなれば放映権収入も増大する、広告効果が高ければスポンサーもつく、ライセンスグッズも売れる、もちろんスタジアムは満員。クラブの収益が増えれば大物選手も呼べる。世界中から注目される名門クラブだからプレーの緊張感も保たれる。相乗効果でますますクラブは強くなる。そう考えると先のクラブワールドカップで、なぜバルセロナのプレーの一つ一つが磨かれているのかという理由がすっと入ってくる。



2015年12月記



今日の一枚
” ポートレイト ” イラン・ファラジ 2013年




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