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10歳の誕生日、プレゼントはカメラだった


父の遺品の中から「オリンパス・トリップ35」という古いカメラが出てきた。初めて僕が所有したカメラ。たしか、祖父にねだって小学4年の誕生日プレゼントに買ってもらったものだ。近所の写真店に連れて行ってもらい、当時1万2、3千円もしたこのカメラをやや遠慮がちに選んだ。
いったい10歳の僕は何に感化されて写真を始めたのだろう?と、ひたすら思い出そうとしたのだが解らない。それでは、このカメラで何の写真を撮っていたんだろう?と考えて気がついた。ああ「スーパーカー」だ。なるほど、カメラを買った時期がスーパーカー・ブームというやつに符合する。
なんとなく記憶がよみがえってきたぞ(笑)そう、僕は国道を走る国内外のスポーツカーを追いかけていたのだ。中古車屋に行って展示車を撮った。店主に頼んで車内もパチリ。東京・晴海のモーターショーに行って車と一緒にクルクル回るコンパニオンのお姉さんを撮っていた。ま、早い話が僕は「カメラ小僧」だったわけですな。
しかし、それだけではないですぞ。僕の「トリップ35」は学校の行事でも大活躍した。修学旅行に行って京都・奈良の神社仏閣をパチリ。学習班の集合写真もパチリ。構図もなかなか安定していた。絵葉書のような写真だった。でも、絵が非常に老けていた。今よりもずっと(笑)


トリップ35について今改めて気づいたことを少しだけ。「35」というのはレンズの焦点距離だと思っていたら、35mmフィルム用カメラという意味だった。肝心のレンズは40mmf2.8と思ったほど広角ではない。言われてみれば車体全体を写真に収めるのに苦労した。
トリップ35は電池を全く使わない機械式のカメラだが、露出計を内蔵し、自動露出機構を備えていた。1/40秒と1/200秒2段階のシャッタースピード、f2.8からf22までの7段階の絞り値の組み合わせをカメラが自動で選んでいたらしい。
そうそうこのカメラ、暗いところで撮ろうとするとファインダー内にアイスの棒のような赤いベロが出てシャッターが切れない。その瞬間すごくガッカリした。それはトラウマとなり、今でもカメラのシャッターを切るとき赤ベロが出るんじゃないかとドキドキする。「トリップ35の赤ベロ恐怖症」と僕は勝手に呼んでいる。
一方、デザインは今見るとクラシックですごくカッコいい。何か機能のあるものなのか未だに謎のレンズ周囲のガラス模様は宝石の様に美しく、まるでアールデコみたい。
実はこのカメラ1967年から84年まで17年間も作られ、世界中で販売された大ベストセラーなのだそうだ。知らなかった・・・


80年代半ば、高校生になった僕は、またまた世のブームに乗って一眼レフというものを手に入れた。絞りやシャッタースピードを自分で決めて写真が撮りたくなった。いろいろなレンズを装着してみたくなった。軽薄な僕はさらりと7年間使ったトリップ35を放り出した。父親はそれを見つけ革のケースに入れて大切に保管してくれたのだ、おそらく。
何か胸を打たれる写真に出会ったとか、写真家に感銘を受けて写真を始めたというちょっとイイ話を期待した方、すみません。十代前半の僕は御覧のようにただただ流行に流されておりました(笑)
しかし、当時の僕にはまだ世の中の殆どのことが新鮮で、好奇心の赴くままに何も考えずにカメラを向けていた。その目の輝きがこのキラキラとしたレンズ周りのガラス細工に重なって来る。なんて書くとカッコつけすぎか。


さて、このカメラのお陰で今年は僕の写真生活40周年であることが発覚した。40年の間一度も写真から離れず、カメラを握り続けているということはわりと誇りに思っているんですよ(笑)次回はもう一台僕の思い出のカメラを紹介しよう。



2014年11月記



今日の一枚
” 初めてのカメラ~オリンパス・トリップ35 ” 2014年




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