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相部屋から考える男女平等論


ユースホステルで最も安価かつポピュラーな部屋というのは、昔からドミトリー(複数のベッドが置かれた相部屋)と相場が決まっていた。学生ではないので頻繁に利用することもなくなったが、僕は今でも時々宿泊する。さて、25年に渡る僕のドミトリー利用歴の中で顕著な変化がひとつある。それは「男女同室」だ。


生まれて初めて泊まったユースホステルはアリゾナ州フェニックスだった。ドミトリーは男女で別けられていた。当時、アメリカのYHはすべて男女別部屋だったと記憶している。ところが1995年、オランダで泊まったYHは男女同室だった。これには戸惑った。ドアを開けて部屋に入ったら女子がたくさんいて、てっきり部屋を間違えたのかと思ってしまった。さすがは人権の国、オランダは進んでいる。
その後、ポルトガル、フランス、日本で泊まったドミトリーは男女別だったが、2007年のドイツ、2010年の中国・・・とそれ以後はすべて男女同室。今ではそれが当たり前のようになった。おそらくこの男女同室の意味は「ドミトリーは公の場。男女の区別無くルームメイトとうまくやってね」ということなんでしょう。YHのドミトリーが男女同室か否かというのは、その国の社会に男女平等の理念が定着しているかどうかのひとつのバロメーターになっているようにも思える。


そんな体験を海外でして日本に帰ってくるとびっくりする。女性専用車両に男女別学の学校、紅白歌合戦、男らしさ女らしさの固定観念、所変われば男女の扱いもずいぶん変わるものだなあ。はたして日本のドミトリー事情は僕が泊まった15年前と変わったのか?
振り返れば、僕は子供のころからそういう性別社会で育ってきた。男の子と女の子は遊びも違ったし、見るアニメも違った、グリコのおまけも違えば、スポーツも違った。男子は技術、女子は家庭科だった。
今はずいぶん変わったらしい。男子も女子も同じスポーツをやる、同じ教科を勉強する、同じアニメを見る、男女同じようにチャンスを与えられる。


でもね、日本が性別社会だからこそのほほんと暮らせる部分もあるのだよ。たとえば、女子アナは放送局の花形であるが、男子アナはあまり前面に出ない。「カメラ女子」とは呼ばれても「カメラ男子」とはいわない。これはおそらく「カメラを持つのは男」という固定観念がベースとなっている。これに対して男性も女性も異議を唱えることなく現状にある程度満足しているのではないだろうか。ある程度丸く収まっているのである。
西洋的な男女平等の概念の前にはこうした甘っちょろさは吹き飛ぶ。欧米で「なんとか女子」とか「美人なんとか」とか「女医さん」なんて表現を聞いたことがない。仕事も社会も公の場で人は男女の区別なく常に中性的に扱われる。だから、大統領が女性司法長官の容姿を褒めただけで問題になる。イスラエルでは男女平等に兵役の義務があるそうだ。ことが起これば女性も戦場に行く。「女子アナ」も「女子会」も「カメラ女子」も特筆されない。日本人が果たしてそれだけの覚悟をもって西洋的男女平等を急に受け入れられるだろうか?
一方、日本的な性別文化というのはかならずしも悪い側面ばかりではない。例えば、西洋のそっけない中性的な商品群に疲れた女の子たちが日本のカワイイキャラクターグッズにはまりアニメのヒロインのコスプレをするし、イスラム教の国の女子高生たちは、愛読する日本の少女漫画の感想を熱心に語ってくれた。


さて、いつもなら西洋的な男女平等の理念を早く浸透させなくちゃダメじゃないか、となるところだが、今回はちょっと違う。まあ、必要に応じて自然と変わって行くのがベストではないかと思う。昔、同じようなことをイスラム社会のところで書いた覚えがあるなあ。
僕たち日本人は現状に甘んじている。ところが世界の国々の中で、日本はとりわけ女性管理職が少ないとか、議員の数が少ないというデータを突きつけられると政府は「数合わせ」という愚行に走る。しかし、そもそもこれ、目標数値を決めて云々という話ではないのだ。
「もっと女子部屋を増やしましょう」ってなんとなく技術家庭科世代の思考っぽい。残念ながらこれでは永遠に西洋的男女平等には到達できない。


しかし、日本の若い人たちは違った教育を受けている。その世代が社会の中核を担うようになる頃、本当の意味での男女平等、ドミトリーの男女同室理論のようなものが根付き始めるような気がする。願わくば古い法体系から男女の断りがなくなるように、経済を好転させて国民全体の生活が少しでも楽になるように、男女の別なく同じ選択肢が与えられるように、国がやるべきサポートというのはむしろその辺しかないのではなかろうか。



2014年9月記



今日の一枚
” 兵役 ” エルサレム 2010年




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