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中国、昇り龍


「今の中国はかつての中国とは違うのだぞ」と心に言い聞かせてから旅に出たつもりだ。しかし、中華人民共和国は想像以上に共産主義のイメージからかけ離れていた。

それではその「共産主義っぽさ」と言うのは何かと言うと、まあ、これも非常に自分勝手な思い込みなのだが「質素、簡素、質実剛健・・・」というイメージだ。ところが、実際の中国は派手できらびやかでチャラチャラしていて・・・高層ビルが建ち並び、おしゃれなブティックが軒を連ね、高級な欧州車が通りを行き交っていた。まるで香港のようだ。しかも、ここは新疆ウイグル自治区のウルムチ。かつてのシルクロードのオアシスも今や大都会。おそらく、中国の地方都市は今どこもこんな風景なのであろう。


テレビのスイッチを入れる。盛大にコマーシャルが流れ、英語のチャンネルでは「御社のCMを全国ネットで流してみませんか?」とプロモーションまでしている。公開放送で五星紅旗を振る子供たちのおそろいの帽子にはアメリカの有名スポーツブランドのロゴ。共産主義っていったい何だろう?「共産主義や社会主義というのは今や絶滅危惧種なのかな」と僕は考えてしまった。そして、学生時代にかつてのソ連を見ておけば良かったとちょっぴり後悔した。せめて自分の知識の博物館に「社会主義・共産主義」というものを陳列しておきたかったのだ。

僕にとって初めての非資本主義国はキューバだった。1998年のこと。カリブ海の「ゆるい社会主義国」だと聞いてはいたが、最初はやはり緊張した。例えば、キューバ人と身の上話をするとする時に「サービスとは、会社とは、報酬とは・・・」いったいどの辺から説明しなければいけないのだろうか?僕は大いに迷った。結局、それは取り越し苦労だったのだが、少なくともキューバでは僕たちが普段暮らす国とは違ったシステムで社会が動いていることを実感した。


さて、話を中国に戻そう。こうして昔の面影が消え去る一方で、中国が世界経済に取り込まれ近代化されていくのは旅行者にとってはありがたいことではないだろうか。仕切りやドアのないトイレで用を足すことや、切符を買うために長蛇の列に並ぶことはよほどの「マニア」でない限り「快適」ではなかったはずだから。交通網のインフラもそうだ。日本のそれよりもはるかに広く清潔な2階建ての寝台車で旅ができるのなら、昔ながらの風情よりもそちらを取るだろう。少なくとも僕ならそうだ。

「昇り龍の勢い」とでも言ったら良いだろうか、今の中国にはそういう雰囲気が漂っている。少なくとも「漢民族」の人たちは確実に豊かになっている。しかし、例えば少数民族はどうだろう。経済発展の恩恵を受けているのだろうか?漢民族居住区のホテルが1泊5000円の宿泊料をとる一方で、ウイグル人居住区の商人が1杯30円のうどんを売って生計を立てているのもまた紛れもない事実なのである。


2007年4月記



今日の一枚
” ホールド・アップ ” 中国・ウルムチ 2006年


 ウクライナ人は笑わない その1




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