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偶然の出会い


思わぬところで思わぬ人にバッタリ会うということはよくある。例えば、街の本屋や電車で知人に会ったり。僕が学生の頃には卒業旅行のワイキキの浜辺で偶然、学校の友人同士がバッタリという類の話を何件か聞いたことがある。


さて、僕の「バッタリ」はかなり天文学的な確率のものだ。バルセロナからロンドンに飛ぶ英国航空の同じ便にニューヨークの友人と乗り合わせた。こんなことってあるのだ。ロンドンのヒースロー空港で飛行機を降りて歩き始めたら、後ろから声をかけられた。「フミ!」振り返るとアンが立っていた。お互い「どうしてここに?」といった感じだ。12月にニューヨークを離れて今はもう4月。日本に帰らずなぜ僕がここにいるのか、彼女が疑問に思うのも当然だ。なにしろ、僕は4ヶ月もスペインをほっつき歩いていたのだから。

時間が無いのか急ぎ足になっている彼女と手短にいきさつを説明しあった。「これからどこへ?」「僕はロンドンで2,3日過ごした後、いよいよ日本に帰るんだ。アンは?」「私は第4ターミナル」つまり、ニューヨークに戻るということらしい。こういう、奇跡的な偶然というのは男に変な幻想を持たせてしまうもので「もしやこれは運命的な出会いかもしれない」と感じた僕はニューヨークを訪れた折に彼女を食事に誘った。しかし、幻想はあくまでも幻想だったようだ。その後、彼女とは何の進展もなかった。どうやら「運命の赤い糸」は存在しなかったようだ。


偶然の出会いとは逆に「会って言葉を交わしたが誰だかわからない」なんてこともある。ある日、マンハッタンのSOHOを歩いてたらシェフの格好をした男に声をかけられた。「ハイ、フミ。元気?」
はて、この人はいったい誰だろうか?知り合いに料理人なんていただろうか?こういうときは素直に「失礼ですが、どなたさまですか?」ときいてしまうに限る。「ハイ、私は元気です。あなたは?」なんて返事をしてしまったらどツボにはまる。僕はハマった。

短い会話の中から手がかりを探そうと、相手がキーワードを口に出すのを待つ。しかし、彼は当たり障りのない世間話しか振ってこない。まるでこちらの手の内を見透かされているかのようだ。
こうなったら、こちらから探りに行くしかない。当時通っていた「写真センター」の話題を出してみた、留学生ではなくアメリカ人の若者という点でセンター関係者の確率が一番高そうだったからだ。 ところが、彼は「写真」に対して全く関心を示さない。もしかして、ご近所さんだろうか?スタッテン島の話を持ち出してみた。全く反応なし。

いまさら「ところであなた誰でしたっけ?」とは聞けない。僕の名前を知っている以上、相手が人違いをしている可能性はなさそうだ。天気の話とか、今ここで何をやっているか、そういうごくうわべだけの会話を僕等は楽しんだ。まるで「質の悪い英会話のテキスト」のようなやりとり。「じゃあね」「じゃあ」???ところでアナタ誰ですか??


2007年4月記



今日の一枚
”ウェイター ” スペイン・バルセロナ 1993年




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