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何もかもロシアのせい その1


アムネスティー・インターナショナルの警告

8月初旬、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルがウクライナ戦争に関するレポートを発表した。 「ウクライナ軍の人間の盾戦略は一般市民を危険に晒している」と題されたこのレポートは次のように述べている。

● ウクライナ軍の攻撃拠点が学校や病院を含む住宅地に設置されている
● ウクライナ軍は住宅密集地域から攻撃を行っている

「ウクライナ軍が人口密集地域に意図的に攻撃拠点を設置しているということでロシア側の無差別攻撃が正当化されるわけではない。 しかし、紛争においては双方ともに軍事拠点と一般市民の生活の場を明確に区別し、一般市民への被害を極力避けなければならない。 一般市民を殺傷したり、一般市民の所有物にダメージを与えることは戦争犯罪である」

レポートは最後にこう警告している。
「ウクライナ政府は直ちに人口密集地域から軍を撤退させるか、市民の方を軍事拠点の付近から避難させなさい。
軍は病院を戦争の道具として使うべきではないし、学校や一般市民の住居の軍事利用はほかに全く手段がなくなった時の最後の選択肢であるべきだ」



この警告に対してウクライナ政府からの反応は直ちになく、数週間後にゼレンスキー大統領が発表したのは
「アムネスティはロシア寄りですべてでっち上げのリポートである」という反論だった。
もちろん、この事実も他のウクライナに関するニュース同様、日本の大手メディアで大きく取り上げられることはなかった。

はて?アムネスティーはロシア寄りの偏向した団体なのだろうか?そんなことはないだろう。 それはこれまで同団体がロシア側の戦争犯罪について発した数々のレポートを見ればよくわかる。
例えば多数の一般市民の犠牲者を出したマリウポリの劇場爆撃についても同団体はロシア側によるものと結論づけている。
これは以前紹介したロシア側で取材を続けるアメリカ人ジャーナリストP・ランカスター氏のビデオの中でも住民によって証言されている。
爆撃の当日ロシア軍機が確かに上空を飛んでいた。しかし同時に語られたのは「ウクライナ軍兵士が劇場の隣100mほどのところを攻撃の拠点にしていた」ことだ。
劇場の爆撃はロシアによるであろうこと、ウクライナ軍は避難民のすぐ隣を攻撃拠点にしていたこと、アムネスティーの調査報告は的を射ている。

思えば、この戦争は最初から「人間の盾の後ろにいるウクライナ軍に対するロシア軍の攻撃が非難される」という図式のもとに展開してきた。
ランカスター氏のビデオの中では市民によってそれが克明に語られている。 マリウポリでドネツクで、セベロドネツクで、ウクライナ軍は市民の住宅の庭に火器を置きロシアに攻撃を仕掛けてきた。 病院を占拠し、学校に武器を持ち込み、人々が暮らす団地の屋上に陣取り、時には団地の住民を追い出しそこを攻撃拠点にした。


ウクライナ政府に対する警告レポートを出すべきか、出さざるべきか、アムネスティー組織内部にも葛藤があったそうだ。 出したことには大きな意義があるし国際的な人権団体の公平性のアピールになるであろうことは確か。 しかし、私的にはアムネスティーはロシア寄りどころかまだまだ西側の国々に忖度しているように思える。


2014年のクーデター以来ウクライナの極右政権はずっと南東部およびクリミアの親ロシア、ロシア語話者を弾圧してきた。 彼らはついにロシア語を使うことさえ禁じられたのだ。ウクライナ国民としての人権もはく奪された。はて?これを人権侵害と呼ばずして何が人権侵害だろう?


ゼレンスキー政権は「ウクライナ東部に対する攻撃を停止する」というミンスク合意を破り、結果的に再びこの地域での戦闘が活発化しロシアの軍事侵攻を招いた。
戦争が始まれば、国家総動員令を発し有無を言わさず市民を戦場に送り込み、国外に逃げることも許されない。 (ロシア国内の「戦争反対デモ」や「兵役拒否」のニュースは報道されるのに、ウクライナにおける戦争反対の声や兵役拒否の報道はまったくされない。 メディアの偏向のためか、はたまた声も上げられないほどのウクライナ政府の言論弾圧のせいか?)ここに人権問題はないのか?


ウクライナ側から狙いも定めず発射されるクラスターロケット(人道上使用が禁止されている)は東部の住宅地を直撃し多数の死傷者を出している。
これらの地域に住む人々には国際的な支援は届かない。 あなたが寄付するそのお金は残念ながら西ウクライナの国民とウクライナ政府でシェアされるだけで、決していまだに戦火に苦しむ東ウクライナの人々の下へは届かない。 これは立派な人道上の問題ではなかろうか?


ランカスター氏のビデオの中でセベロドネツク郊外でロシア軍が来る以前にウクライナ軍によって射殺されたと思われる一般市民の遺体が映されている。 遺体の隣には銃撃によって穴が開いたビニール袋。「おそらく頭に袋をかぶせられ何らかの理由で射殺されたのだろう」ビデオの中でロシア側の兵士がそう語る。
兵士の説明だけならフェイクの可能性もある。 けれども、実際に頭から袋をかぶせられ、いわれのない偵察および破壊活動の容疑でウクライナ軍に連行されたという市民のインタビューを見るとフェイクでは片づけられない。
そういえば「ブチャの大量虐殺」はどうなってしまったのだろうか?ウクライナ政府もマスコミもあれだけ騒いだのに・・・
フェイクでも事実でも、殺された一般市民は本当に気の毒だ。 武器を持って戦えと国家に命令され、自分の亡骸まで戦意高揚のための国家のプロパガンダに使われる。 それこそ人権侵害の極みではないだろうか?



ザポリージャ原発


NHKのニュースサイトはこう報じていた。 「ウクライナのザポリージャ原発がロシア軍による攻撃で危機にさらされている。ザポリージャ原発はロシアの支配下に入っている」
この記事を書いた人は筋の通らない文章に首をかしげなかったのだろうか?なぜロシアが支配する原発に自軍が攻撃をしかけるのだろうかと。
同じニュースをロシアのTASS通信は「すでにロシアの管理下にあり防衛の軍が駐留しているザポリージャ原発に対してウクライナが攻撃をしかけている」と報じた。


こうしたメディアの報道姿勢も戦争当初から全く変わっていない。鼻から客観的な報道をする気なんてないのだ。
ザポリージャ原発の報道ではまず主語が消える。
「ロシアが占拠している原発で砲撃が続き、原発が危機的状況になっている」
「誰が?」がなければ多分にミスリードを誘う可能性がある。いや、意図的にそういう報道の仕方をしているのかもしれない。 状況をよくわかっていない人が記事を読めば「ロシアがウクライナの原発を占拠し、内部で無慈悲な破壊活動をやっている」ととるだろう。
その後は必ずウクライナ政府側のロシア批判が書かれる。あたかも真実のように。
住民を置き去りにしてさっさと逃げ出した市長や市議が遥か彼方の安全地帯から街の惨状を語る。米国政府のコメントがそれにお墨付きを与える。

「もっと武器をくれ」と叫ぶTシャツ姿の大統領よりも、TASS通信に載るロシア政府の見解の方がよっぽど論理的で説得力があると私は思うが、日本を含む西側大手メディアにとってはロシア側の話はすべてフェイク。 本当にバカげた話だがニュースの筋書きと結論が最初から決まっている。
「ロシアは悪である」という結論に向けて、安易で都合の良い「証言」をネット上から集める。


ザポリージャ原発をウクライナ軍が先に占拠し、原発を盾にロシア支配地域でいつまでも抵抗を続ければウクライナはロシアが支配するウクライナ南部やクリミア半島への電力の供給を切断するかもしれない。 (実際にウクライナはクリミアへのインフラを破壊してきた)ロシアはライフライン確保のためにこの原発は死守しなければならない。
ザポリージャ州の住民の何割がロシアを支持しているか知らないが、支配下に置いた地域の住民に自国のパスポートを発給しているロシアが原発を破壊して町を放射能の海にしようとはとうてい考えられない。


常識的に考えれば、ザポリージャ原発原発に攻撃を仕掛けているのはウクライナだろう。
皮肉にもここではロシアが原発を盾にする結果になっている。しかし、少なくともロシアは原発を隠れ蓑にしてウクライナに攻撃を仕掛けているわけではない。 一方、ウクライナ側は原発に攻撃を仕掛けることにまったく躊躇していない。 うがった見方をすればウクライナはロシアにわたった地域の原発を破壊し住民にまで被害が及んでも構わないとさえ思っているのかもしれない。
これは独立したドンバス諸国に対するウクライナ政府の数々の「仕打ち」と重なる。 自分たちの政府を裏切りロシア側に寝返った地域の住民にウクライナは脈略もなく砲弾の雨を降らせてきた。
その砲弾とは紛れもなく米国の供給したHIMARSロケットであり、使用が禁止されているクラスターロケットだ。 そしてウクライナは「これはロシアによる砲撃だ」と主張する。


ザポリージャ原発にはIAEAの査察が入った。これに対しても双方が査察の妨害を非難。しかし、少なくとも原発を支配するロシアはIAEAの査察を以前から要請していた。
査察の結果は「攻撃による電源の喪失で原子炉は危機的な状態」とされた。 例えば、ザポリージャ原発を非戦闘地帯にして中立的な第三国の原発管理会社が平常運転に努めるといった方策はとれないのだろうか? そして、それが停戦へのきっかけになれば良いのに。


2022年9月記


今日の一枚
” 夢のマイホーム ” ウクライナ・ドネツク 2009年







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