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ウクライナ 後編


なんだか長編小説のようになってしまった。いったい何から話を始めたのか・・・?そう、オリバー・ストーン監督の"The Putin Interviews"だった。
私が作品を見たのは3、4年前のことだと思う。今回のウクライナ戦争でふと思いだして見返してみた。現在この作品を見られるかどうかはわからない。

オリバー・ストーン監督はこのインタビューをもとに「Ukraine on Fire」というドキュメンタリー映画を作製している。こちらはYOU TUBEで配信されている。
映画は第二次世界大戦中のウクライナにおけるナチスのユダヤ人大量虐殺からソ連時代、2014年のクーデターに至るまでと、その後のウクライナ政府によるドンバス地方への軍事攻撃の様子を描いている。
これに呼応するようにウクライナでは全く逆の立場で「Winter on Fire」という映画が作られた。こちらはクーデターにおける反政府側(マイダン)のわが闘争の記録みたいな映画。 こちらも動画配信されている。
ドキュメンタリー映画としての完成度を比較するのはあまりにも酷なので双方を観て受けた感想を。


「Winter on Fire」やゼレンスキー政権、西側の報道に共通するワードがある。それは刹那的、主観的、感情的といったものだ。今起こっていることだけをすくい上げて感情を乗せ、見解を出す。
一方、オリバー・ストーン監督の映画やプーチン大統領のインタビューはそこに至るまでの過程がきちんと描かれている。
おそらく、ウクライナの歴史について語らせたらプーチン大統領の方がゼレンスキー大統領よりもよほど詳しい。
無知なのか、あるいは故意なのか、ゼレンスキー大統領は絶対に歴史の流れの中の現在に至る状況について語らない。なぜ、ウクライナの戦争が起こったのかそれを語ろうとしない。 2014年から8年間ウクライナ東部の国民との間に何があったのかを話さない。 停戦合意をなぜ破ったかも語らなければ、独立の住民投票が行われた地域に自分たちがどのようなことを行って来たかも一切語らない。 彼が語るのは常に今の感情だ。


西側のメディアの報道も全く同じ。
BBCの制作したニュースをYouTubeで見た。ドンバスの村でロシア軍と戦うウクライナ兵たちの様子のドキュメントだった。兵士たちは砲弾飛び交う村でとある住民に避難の説得をする。しかしその住民は村に残る決意をする。
先に紹介されたパトリック・ランカスター氏のリポートと決定的に違うのは住民の気持ちが一切語られないところだ。 BBCが体よく編集して描くのは、ウクライナ軍の戦場での勇敢なる活躍と泣き叫ぶ住民の姿だけ。 あくまでも主役は兵士。支配者がたびたび変わる村で住民が過去8年間どんな経験をしてきたか、今何を思っているか語られることはない。


日本の報道はもっと偏っている。
多くの人は悪の国ロシアの独裁者プーチンが突如隣国を侵略し、住民投票を行わせ独立を強要、ドンバスを含む地域を無理やり占領しようとしているとまじめに信じている。
ニュースに上るコメントはすべてウクライナ政府関係者か地方議会のお役人、ウクライナの人権団体のものばかりで市民の声は上がらない。
「火のないところになんとか・・・」というけれど、政府に対して全く何の不満もない国民が果たして独立の住民投票を行うだろうか?89%の独立賛成票を得るだろうか?
報道に共通するのもまた住民の声が全く反映されないところだ。 「住民投票を焚きつけているのはロシアで、投票が行われた場合には停戦はない」
ゼレンスキー大統領のコメントだけがニュースになる。

責任転嫁もほどほどにして欲しい。求心力を失った国民の心と停戦とはまったく関係がないだろう。

まともな民主主義国家ならば、政府と違った意見を持つ国民を力でねじ伏せようとはしないだろう。

独立の住民投票の声があちこちで上がる前になぜウクライナ政府は国民の不満に耳を傾けなかったのだろうか?

なぜこういう政権がのうのうと権力の座に居座れるのだろうか?

独立の住民投票の声が上がった町、すでに独立を宣言した町、ロシアに併合された町をすべて合わせるとウクライナ政府の主張する領土の5分の1ほどになるのではないだろうか。
ドネツクやマリウポリの住民のインタビューの中に「西ウクライナ」という言葉がしばしば出てきた。
人々の中ではウクライナは東西に分断され、西ウクライナの政府は何一つ自分たちのことを考えてはくれないという不満が見え隠れする。
そして、日本をはじめとする西側の政府はいったいいつまでこの政権を無条件で支持し続けるのだろうか?
この大統領が国民に信用されない「裸の王様」になってもウクライナ政府への支援を続けるのだろうか?


世界の腐敗国家ワースト29というランキングがある。クリーン度を100点満点にし、その点数の低さで腐敗度をあらわしたものだ。
ウクライナは30.0ポイントでワースト29位(同率3か国)、ロシアは29.0ポイントでワースト22位(同率7か国)。順位さえ離れているが同率国がたくさんあるので両国の腐敗度は1ポイント差。ほぼ同じだ。
両国とも同じような腐敗国家なのに日本政府はウクライナの方を100%信頼し支持している。ウクライナ政府が反対する国民に対してどんな人権弾圧を加えていてもだ。 これは相手がロシアだからであろう。
一方で中国当局のウイグル人迫害問題には反対の声を上げる。これは迫害に関与しているのが中国政府だからである。
他方、ミャンマーのロヒンギャ問題はスルー。私が気に入らないのはこういったダブルスタンダードだ。 所詮この国の政府には人権に対する普遍的な理念などないのだ。


ウクライナ政府をめぐる黒々とした裏の話は枚挙に暇がない。ウクライナの政権はロシアよりもっと腐ったオリガルヒと癒着している。政権を支えるユダヤ人ネットワークにアメリカ議会のウクライナロビーの圧力。
バイデン大統領は副大統領時代、現ウクライナ政権の誕生に深くかかわっている。
その直後、息子のハンター・バイデン氏はウクライナの国営ガス会社のコンサルタントに就任、莫大な報酬を受け取っている。
ウクライナは本当に信用に値する国なのだろうか?


データをもうひとつ。国境なき記者団の「報道の自由ランキング」
今年のロシアのランキングは156位だ。しかし、ウクライナのランキングも106位。決して報道の自由がある国とはいえない。
ちなみに日本の順位は71位。71位の国が106位の国の公式発表を真実として報道し、156位の国を非難している。 果たして私たちはこうした一方的な報道を鵜呑みにして良いのだろうか?


私の日本のメディアへの不信感はウクライナ戦争で頂点に達した。
こんな偏った報道を見たのは自分の人生で初めてだ。 自分が購読していた新聞も、良識があると思っていた番組も、評論家も、ジャーナリストも、すべて一方的にウクライナ=善、ロシア=悪という図式のもとロシア叩きに終始している。
ウクライナのうの字も知らなかった評論家が知ったような口をたたき始める。
すわ中国か、とネトウヨの政治家がここぞとばかりに8千キロ彼方の国の戦争を引き合いに防衛予算の大幅増や憲法改正論議を押し出してくる。
一方的な日本の報道に感化されてしまった私の周りのごく普通の人たちも口々に「ロシアは怖い国だね」「プーチンは悪い人だね」と口に出す。
おかげで、ここ数か月はテレビの報道番組も、購読新聞も、好きだったラジオの番組もほとんど見聞きしなくなった。本当はそれではいけないのかもしれないが、自分にとってストレスにしかならないものには耳をふさぐことにした。


この戦争で私が恐ろしいと思ったのはロシアでもプーチンでもなく、一気にウクライナ支持、ロシア非難にたなびいてしまう日本のマスコミと日本の人々である。
もし日本で再び戦争が起こったらこの国の世論はどうなるか?その答えを見せられたような気がする。
保守政党のみならず革新系の政党までもウクライナ支持、ロシア非難の一辺倒。メディアも同様。少しでもロシア側に立つようなことを言えば「気違い」扱いされる。
私はもちろん第二次世界大戦を知らないが、戦争体験者の人たちはウクライナ戦争に対する日本の画一的論調を見て不気味な印象を持たないのだろうか?

戦争体験者のみなさん、あなたたちが先の戦争から学んだことは何ですか?
世の中を善と悪に分けることですか?米英は「鬼畜」ではなかったですか?

若い世代の方々。あなたがたは自分の頭では何も考えずに時の政府が「こいつは敵だ!」と言った相手と言われるがままに戦うのですか?
逃げる自由も奪われ、武器を取って戦えという国のリーダーの人権を無視した命令に従うのですか?
自分の街が破壊され、砲弾の中を逃げまどい、近親の墓を掘る。そんな状況下でもなおあなたは国家に忠誠を誓い、「国家が決めた敵」を憎むのですか?
国のリーダーがまともに外交ができていれば避けられた戦争かもしれないのに。リーダーの保身のための戦争を肩代わりさせられているだけかもしれないのに。


最後に最新のパトリック・ランカスター氏の動画を紹介したい。取材場所はマリウポリとクリミアの中間点ベルジャンシクの町である。
町の統治は2月末にウクライナからロシアに変わった。この街では建物の破壊もなく、人々の生活はいたって普通だ。ウクライナ側の通信回線が切断されたのにかわり、ロシアの通信会社のSIMカードを買い求める市民に話を聞いている。
PL 「ロシアとウクライナ、あなたにとってどちらに統治された方が良いですか?」
60代の女性 「その質問には答えられません。まだ戦争の最中ですし、この先どうなるかわかりません。 ここでその質問に答えることは双方の政府から投獄される危険が伴いますから」
しかし、女性が徐々に本音を話し始める。
女性 「本音を言えば・・ロシアです。ウクライナ統治時代のスズメの涙ほどの年金、バカ高い光熱費(特にガス代)と税金、あれでは私たちはいつまでも働き続けなければなりませんから。
ロシアの統治で少しでも状況が改善されるならばその方が良いです。私の世代の意見ですよ、あくまで。若い人たちは全く違うでしょう。(ウクライナ支持かもしれません)」
すると近くにいた若い女性のグループが
「私たちも同じ思いですよ。ロシアの統治で少しでも暮らしがよくなればいいと思っています」

中年男性は「私はウクライナを愛してますよ。戦争の前とはちょっと見方が変わりましたけどね。ウクライナを支持する人、ロシアを支持する人、人それぞれです」話す。
もっともだと思う。マリウポリからのレポートでも「自分はウクライナ人です」「ロシアに避難する理由もないので街にとどまります」 「今はロシアに避難しますがいずれは自分の故郷ウクライナに戻りたいです」こういう市民はたくさんいた。
ドネツクのリポートでは「どちらに統治されようがそんなことはどちらでも良いのです。私たちは8年間続いてきた戦争が終わり、人並みに平和な生活を送りたいだけです」という住民の願いが語られた。
西側メディアの報道とは違って、ランカスター氏の動画で市民はオープンに正直な気持ちを語っているように思える。13年前、私はウクライナで撮った写真の一枚に「ありふれた一日」と題をつけたが、ありふれた一日を送れることがどれほど幸せか今痛感する。

市民の願いも空しくロシアに統治が移った地域に対するウクライナの無差別攻撃は今も続いている。 さらに西へドニエプル川のほとり、へルソンの村ではほんの数日前ウクライナ領内からのクラスターミサイルで民家が攻撃を受け3人の死者が出た。この戦争で毛布をかぶせられた近親の遺体のそばで悲しみを語る遺族の姿を何度目にしたろう。 彼らにはもう怒りをぶつける気力さえない。


私たちの税金から出ているウクライナ政府への支援はこの人たちを苦しめることには使われても、この人たちを救うためには一銭も使われない。
日本の政府の方々。ウクライナという土地に住むすべての人たちが平和に暮らせるように、支援や制裁ではなく、8年間にわたるこの戦争を停戦に導くという賢明な選択をしてください。
そして、日本のマスコミのみなさん。あなたたちの報道にはため息しか出ません。 願わくば、この戦争についてあなた方が書いた記事の、報道した内容の検証をしていただきたい。



2022年6月記


今日の一枚
” ありふれた一日 ” ウクライナ・チェルニヒウ 2009年







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