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ファレ


ファレとはサモア語で「家」のこと。サモアに行ったら一度「ビーチファレ」での宿泊を経験すべきだ。そんなことを誰かが教えてくれた。ビーチファレとは文字通りビーチハウスのこと。といっても日本の「海の家」ではない。海岸沿いに色とりどりの木造の小屋がいくつも並んでいる西洋風のものに近い。しかし、サモアのビーチハウスはそれともちょっと違う。舞台のような3畳間ほどの高床に4本の柱、屋根がついた簡素なものだ。そのままだと中が丸見えなので四方に布を張る。これで風通しの良い海辺の部屋の出来上がり。もちろん、この施設はお金を払って借りる。
現地に行くまで僕はビーチファレとはバンガローのことだと思っていた。せっかくサモアに来たのだからとは思いつつ、雨季の雨に打たれつつ野宿に近い生活はちょっとキツそうだし、なにより泊まっているバンガローが居心地がよい。結局、僕は自分を甘やかしてしまった。


ビーチファレの建築様式というのは海辺の観光客目当てで生まれたものではない。モデルはサモアの伝統的な家屋のスタイル。サモアを歩くと民家に必ずファレがあることに気づく。もちろん、3畳間の座敷ではない。もっと広々した石の床を大きな屋根が覆っており、その屋根は何本もの柱で支えられている。大きな日陰の心地よい風が吹き抜ける空間で人々は休息し語らい、食事をする。おそらく、昔はここで寝食を済ませていたのだろう。現在は窓もドアもある普通の家屋が併設されている。けれども、サモアの人たちは今でも一日の大半をこのファレで過ごす。いわばリビングのようなものだ。
ファレがあるのは個人宅だけではない。村の集会所も道端の休息所も、ときには教会もこのスタイル。老若男女サンダルを脱いで上がり込んで語らっている。サモアではファレのあるところに人が集まり、人が集まるところには必ずファレがある。



2020年1月記


今日の一枚
” ファレに集う人々 ” サモア・アピア 2019年




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