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カズベギの秋 その2


山頂の教会はこぼれ落ちんばかりの人だった。ここまで来たことを労うかのようにカズベギ渓谷の雄大な景色が人々を迎えた。絶景、ただ、絶景。さらに900mほど登ると氷河の雪渓が広がるらしい。欲すればいくらでもトレッキングコースが用意されているのがカズベギである。
僕はここまでで良しとしよう。(ホントは足がパンパンでもうこれ以上歩けませんっ)


向かいの岩山は太陽の傾きとともに山肌の質感を変え、足元の山並みの影が徐々にカズベギの街を覆ってゆく。影がついに岩山まで伸び、その日最後の太陽が山頂を照らす頃、僕は山を下りゲルゲティの農家の庭先にいた。一日の仕事を終えた夫婦がお茶を飲んでいた。カズベギの山並みを見渡しながら、なんと贅沢な食卓なんだろう。美味しいハムとチーズをごちそうになった。毎日毎日、教会に向かうためにこの集落を通り抜ける旅行客はたぶん数百人に登るだろう。それなのに、この村の人々は迷惑な顔ひとつせず本当に親切だ。


標高の高いカズベギは、例年なら紅葉は終わっている季節なのだそうだが、今年は比較的暖かく今が盛り。しかし、夜になると部屋には暖房が入り、吹き荒れる木枯らしで宿の庭の林檎はかなり落ちてしまった。野良猫が落ちた林檎の実とじゃれあっている。季節は確実に秋から冬に移っているようだ。カズベギは11月から完全にオフシーズンになる。ただし、雪に覆われたサメバ教会(三位一体教会)の写真がなかなか魅力的で「あえて冬」という選択もありなのかもしれない。


2019年11月記


今日の一枚
” ポートレイト ” ジョージア・カズベギ 2019年




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