magazine top










ラグビー


ラグビーのW杯が迫ってきた。うちの近所も会場になっており徐々に盛り上がりを見せている。と無責任に書いたが、実はラグビーに関しては何の知識も持ち合わせていない素人。あのゴチャゴチャした感じ、すぐにプレーが止まるところがどうも苦手なんですよ。柔道の試合で寝技を連発されているみたいでスッキリしない。そんな僕にこの球技に対する興味を抱かせてくれたのがサモアの人たちのラグビー愛だった。


以前ここで書いたことがあるが、インドやバングラデシュでは男の子が集まれば必ずクリケットが始まる。これには結構驚かされた。僕が子供の頃は圧倒的に野球だったし、今まで訪れた多くの国ではサッカーが一般的だったからだ。世界は広くてスポーツ文化も様々なのだと再認識させられたのはサモア人の愛好するスポーツを見たときだった。それはラグビー。
涼しくなった夕暮れの公園では男性だけではなく女性も混じって試合が行われている。砂浜ではビーチバレーならぬビーチラグビーが始まる。大学のラグビー部の練習は観客が鈴なりだったし、小学生は使い込んだラグビーボールを小脇に抱えて下校中だ。大人になったらサッカー選手になりたい、というのと同じようにサモアではラグビー選手への憧れをもっている子供も多いのだろう。そして、ニュージーランドやアイルランドのプロリーグで活躍すればもう故郷の英雄だ。「XX選手はこの村の出身です」なんていう写真入りの看板が道の傍に立っている。


ラグビーといえばニュージランド代表(通称オールブラックス)が有名だけれど、サモアではあちこちに(例えばバスの土手っ腹とか)オールブラックスをおちょくったジョークが書かれていた。多分、ラグビーにはサッカー以上に歴然たる実力の差があって、その頂点に立つオールブラックスは到底叶わぬ相手。それにも関わらず軽い皮肉のジャブを打ち続けるサモア人のユーモアのセンスはすばらしい。
その一方でオールブラックスに対する尊敬の念も感じる。試合前に歌うハカ(戦闘歌)はニュージーランド先住民のマオリの伝統から来ているが、実はハカの風習はサモアにもある。ラグビーという西洋のスポーツの中で脈々と生き続けるポリネシア人の精神に対し、ルーツを同じくするサモアの人たちは共感を覚えるのかもしれない。


「歴然たる実力の差」と書いたが、その中でジョークでなく実際に強敵を打ち破ったのが日本だった。W杯2015年イングランド大会、南アフリカ戦での日本の劇的な逆点トライはサモアの人との話の中には必ず出てきた。いくら大番狂わせといえど、自国が絡んでいない試合を彼らはよく覚えているものだ。しかし大金星はあくまでも1試合だけ。日本は結局ベスト8にも入れなかった。「大金星」と言われているうちは強豪国の仲間入りはできないんだろうな。いやいや、昨日今日ラグビーを知った人間がそんな偉そうなことを言ってはいけない。


さて、日本大会はどうなるか?組み合わせ表を見るとサモアと日本は同じ組ではないか。僕は双方を暖かく見守ることにした。そして最高の下剋上を期待しよう。



2019年9月記


今日の一枚
” ポートレイト ” サモア・アピア 2019年
 ポスト・スクリプト ~ それから

ラグビーW杯は南アフリカの優勝で幕を下ろした。サモアは残念ながら予選プール敗退だったけれど、日本は見事に初のベスト8入りを果たした。素人なりにラグビーの試合を初めてじっくり見た感想を3点。
1つ目。ラグビー観戦というのはすごく疲れる。サッカーの5倍位エネルギーを消耗する。まるで格闘技の試合を見た後のようだ。
先日サッカーの試合を見たらやけにスカスカに思えた。ボールを持った選手をフリーにし過ぎじゃないか。なぜ後ろからタックルに行かないんだ。そっか、サッカーでそれをやったら一発退場なんだっけ。
2つ目。世界のラグビーの階層(ヒエラルキー)はニュージーランドの圧倒的一強ではなく、上位チームの実力は拮抗しているらしい。
そして3つ目。日本チームの勝利は今やまぐれなどではなく、どうやら実力らしい。
日本サッカーがW杯初出場を果たしてから20年経つけれど決勝トーナメントでまだ1勝もできていないことを考えると、必ずしもこの先トントン拍子で行くとは限らない。けれども、ラグビーが注目を集め、競技人口が広がれば必ずトップチームも強くなるに違いない。

サモアを訪れた今春から、自分の中のラグビー熱を徐々に盛り上げて来たつもりだったが、肝心の本大会前半は海外取材で日本におらず。帰国後数試合をテレビ観戦しただけ。それでも、非常に内容の濃い試合を堪能した。
ここで改めてサモアの写真を見る。まるでスクラムのようなぎゅう詰めのバスのお尻はポッカリと空いていて、なんだかそこからラグビーボールが出てきそうな気がする。ほんと、ラグビーな国だぜ。

2019年11月記




fumikatz osada photographie