<< magazine top >>










八ツ場ダム


この前、ここを通ったのは何年前のことだろう?おそらく20年位前かな。JR吾妻線に沿って群馬県の渋川から万座鹿沢口方面へと続く道。軽井沢への裏ルートでもある。いや、周辺には草津や四万、万座などの温泉もあるから裏街道と呼ぶのは失礼か。
車を走らせながらふと思った。なんだか昔より道路が立派になって、凄く高いところを走っているような。以前は吾妻川の川原の石が見えるくらいに川面に近いところを走っていた。モダンなデザインの巨大な吊り橋が山間にかかっている。途中、かなりの頻度で工事中の箇所にぶつかった。この道まだまだ良くなるみたいだ。

そういえば、以前ニュースになった八ツ場ダムってこの近辺じゃなかったかなぁ?やがて、渓谷を跨ぐとんでもなく高い吊り橋が視界に入ってくる。その袂が「道の駅」になっていた。よし、ここで聞いてみよう。駐車場に車を止めると傍に看板が立っていた。「八ツ場ダム完成予想図」ああ、まさにここがダムになるんだ。
真新しい橋の真ん中に立ってみる。橋桁の高さからも想像できるように現在の川面は遥か下だ。なるほど、さっき走ってきた道路は山腹にかさ上げされていたのか。見渡すと吾妻線の新駅も既に高い場所に移動している。やがて、ここはダムになり橋桁の大部分は水に埋まる。「完成予想図」には湖面を渡るつり橋の絵がかかれていた。遥か下に見える営業終了したドライブインの建物も、色着き始めた木々も、街路灯も温泉街も、やがて湖底に沈むのかと思うとなんとなく寂しい。
このダムは建設継続か建設中止か揉めに揉め結局作ることになったんだっけ。で、完成はいつなんだろう?とにかく、準備は着々と進んでいるようだ。


それから1年が経った。調べると八ツ場ダムは当初今年(2015年)完成の予定だったが、工期が延長されて2020年完成に変わったらしい。しかし、現場を訪ねてみてやはり「このダムって本当に必要なんだろうか?」という疑問が僕の頭の中に浮かんで来た。吾妻渓谷の自然を破壊することになるというのもさることながら、電車の新駅や山間の立体交差、巨大なつり橋なんかを見てしまうと、相変わらずの箱物行政とか地元自治体や建設業者へのばら撒きとか、そういうのがなんとなく透けて見えてきてしまって・・・
きっと原発も、そして辺野古の基地建設も全く同じ構図なんだろうな。本当にそこにそれが必要かは関係なく、わりと簡単に霞ヶ関で決定してしまってね。先に結論ありきで事は進行する。「賛成してくれれば地元の皆様にはプレゼントを差し上げますよ。反対?それなら十年一日がごとく生活してください。そうだ、振興予算も減額しちゃおうかな」日本の政治は斯様に幼稚で中央集権的なんだね、たぶん。
夏場の水不足による取水制限なんて関東に住む僕はもう何十年も経験していない。一方、今夏の太陽光発電量は総発電量の6%、ピーク時には原発12基分に相当したそうだ。ちなみに水力発電は7.5%程度。完成が延びて延びて、結局出来上がった時に「あれ?なんでこれ作ったんだろう」ってことにならなければよいけれど。


取ってつけたようで申し訳ないが(笑)ダムというと僕は「長江哀歌(エレジー)」(2006年 監督:ジャ・ジャンクー)という中国映画を思い出す。重慶市の奉節という町を舞台にした作品。このロードムービーの背景として描かれている三峡ダムの建設と住民の立ち退きはリアルタイムの実話だ。立ち退きに関わる政府の補償金で揉めたり、予定水面の位置と立ち退き期限が段階的にペンキで記してあったり、地元有力者のパーティーが描かれたりというのを見ると、公共事業に関わる政治的な圧力や利権みたいなものは世の東西を問わないのかも。
メディアは最後までこのダムの問題を取り上げていた。立ち退く住民の数が日本とは比較にならないし、三峡地区は漢詩や三国志にも登場するような歴史的にも名高い長江の景勝地、自然破壊という点でも問題になったんだろうね。
いずれにせよ、10年前に街はダム底に沈んでしまった。その後、三峡地区の風景はどう変わったのだろう?まずい、また訪れなければいけない所が増えてしまう(笑)



2015年10月記



今日の一枚
” 八ツ場ダム予定地” 日本・群馬県 2014年




fumikatz osada photographie