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安さは善なり その1


旅先でひとりなら食堂とかファストフード店に入ることが多い。食へのこだわりはないが、食いしん坊である。


イランではその食堂探しに苦労した。まず圧倒的に外食店が少ない。さらに閉店時間が早くて休日は休みとくる。テヘランを除けば屋台の類もあまり期待できない。そんな中、かろうじて遅くまで営業してるのが若い店主の営業するハンバーガーショップ。まるで誘蛾灯に誘われるように腹を空かせて店に入る。
「イランまで来てハンバーガーはない」そう思うでしょ?ところが一見テキトウっぽい店主の焼き上げるハンバーガーがけっこういける。値段は250円ぐらい。丁寧にアルミフォイルにくるんである。大きさは日本のハンバーガーの約4倍。美味い。味をしめて翌晩も店を訪れる。ところがあたりは真っ暗、店はシャッターを閉ざしている。休みの前日は他の店舗同様普段にもまして早仕舞いのようだ。でもまだ6時半ですよ。


30分ほどあたりを探し歩いてようやくカフェらしきものを見つけた。メニューは・・・サンドウィッチ、ハンバーガー・・・「じゃ、ハンバーガーをひとつ」テーブルに出来立てのハンバーガーが置かれると直ぐにかぶりつく「ガルル、ガルル」その姿を見ていた隣のテーブルの女子大生らしきふたりが声を掛けてくる。「あなた、そんなにハンバーガー好き?」「へい、三度のメシより、いや三度のメシにでも」「それじゃあ、この街(ヤズド)で一番美味しいハンバーガーショップを教えてあげる」「うん。教えて」「アザルディ通りのセザールファストフードよ」「なるほど、覚えておきましょ」


ホテルのレセプションで早速、そのハンバーガーショップについて聞いてみた。「ええ、もちろん知ってますよ。美味しいです」「近いんですか?アザルディ通りって」「ここからだと街の反対側ですから、タクシーですね。往復で800円くらいかな」イランの街は大きすぎるいのが玉に瑕。300円のハンバーガーに800円のタクシー代か・・・「よし、明日の晩街を離れる前に行ってみよう」すると、レセプショニストが「残念です。明日は休みですよ金曜日(イスラムの休日)だから」ガックリ。ヤズドに行かれる方ぜひ食べてみてください。


ここで日本の話。以前、ここで「日本のコンビニのサンドウィッチはどこまで小さくなるのか」と書いた。しかし今、コンビニの店内を見渡してみると何もかも小さくなっている。まるで自分がガリバーになったような気分だ。おまけに値段が上がっている。調理パンを手に取る。なにこれ小っさ。3割減といったところ。でも値段は3割増し。ちなみに値上げのことは「新価格」、減量のことは「カロリー控えめ」と呼ぶらしい。パンの棚にぺろーんと薄いせんべいのようなものが一枚。メロンパンの皮のみ76円也(笑)残念ながらメロンパンからパンをとってもメロンにはならない。


バブルのころの世の商品は豪勢になって値上げされていった。当時の商品に良いものが多いのはコストをかけているからだ。ところが今は、値上げすりゃいいという変な合意事項を基に中身を削り、質を落として価格を上げている。実に貧しく卑しい。「生鮮食料品を除く物価上昇率が2%に達していない」だって?いったい何を測っているんだい?現場は昔のソ連みたいになってますよ、総裁。いや、今回は愚痴らないで行こう。


そんなコンビニの店内に、僕にとっていわば救世主のように現れたのがセルフのドリップコーヒーとドーナツである。しかもいずれも税込み100円程度。とはいえコーヒーはなかなか美味い。ドーナツはまあ普通(笑)コンビニで買うコーヒーとドーナツは若き日のニューヨークのデリ(デリカテッセン)を思い起こさせる。旅先どころか僕は今までずーっとエネルギーをジャンクフードから摂取しているんだなあ。紙コップのレギュラーコーヒーが65セント、ドーナツも同じような値段からだった。あ、ちなみに25年前の話。当時のデリのコーヒーなんて「味のない色水」のようなものだったから、日本のコンビニのバリスタ仕上げのドリップ・コーヒーの100円というのは破格。ドーナツ100円というのも安い。



2015年5月記



今日の一枚
” バーガーショップ ” イラン・エスファハン 2013年




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