本はソラから降ってくる その2
Kindle(キンドル)で読む洋書はどんなものがいいか?と考えた末、小説というところに落ち着いた。コメディー、エッセイ、ロマンス、殺人もの、フィクション、ノンフィクション・・・小説と一口にいっても分野はさまざま。とりあえず雑食で行くことに(笑)
ところが偶然にも12冊読んだうち3冊がアメリカに移住した移民(難民)の私小説だった。まず、1冊目がディナウ・メンゲツの「The Beautiful
Things That Heaven Bears」でエチオピア移民のワシントンDCでのほろ苦い日常体験を綴った話。2冊目はカーレッド・ホッセイニ著「The
Kite Runner」、アフガニスタン難民である主人公の母国での幼少期の思い出と、アメリカに移住した後も心に宿り続ける最愛の友人への罪の意識を描いたもの。そして3つめは、祖国の過酷な内戦を経てアメリカへの移住したハイチ難民の話「Brother,
I'm Dying」エドウィッジ・ダンティキャットの作品だ。
3冊に共通して描かれているのは、新天地アメリカで厳しい現実に直面しつつも日々逞しく生きてゆく主人公、そして異国の地で互いに支えあう同郷の友の姿。さらに2作品にはアメリカに移住するにあたり非常に苦労する家族の様子も書かれている。
「なんだ、お決まりのパターンがあるんじゃないか」って?ところがこの3つの移民たちの話を読んでみると切り口や主題が全く違う。例えば「The Beautiful Things ...」はアメリカの人種差別や地域社会について、「The Kite Runner」は自分が過去に犯した罪と償いがテーマ。一方、「Brother, I'm Dying」は家族の絆とアメリカの移民政策について綴られている。
さて、この3作品の中で僕が最も好きなのは「Brother, I'm Dying」。1970年代半ばから2004年までの主人公とその家族の歴史と絆が詳細に綴られているこの小説は、母国ハイチの過酷な内戦の描写のみならずアメリカの移民政策の影の部分も描いているからだ。
この作品が僕の心に残ったのには、実はもうひとつ理由がある。僕がNYにいた1990年代初頭、街では毎週のようにデモがあった。マンハッタンの道路を閉鎖して、セントラルパーク一角を使ってそれは行われていた。とりわけハイチのデモにはよく出くわした。まだ若かった僕はハイチの首都ポルト・オゥ・プランスで何が起こっているのか、いったい彼らが何を訴えているのかよくわからなかった。
けれども今、この小説を読んであの時人々が声高らかに何を訴えていたのかが遅ればせながら理解できた。僕の体験と小説がやっと繋がった。
それにしてもアメリカの文壇の層の厚さには驚かされる。移民大国であるアメリカにはこうしたドラマチックな実体験を持つ作家がたくさんいるのだろう。彼らが描く物語は、紛争の地から遠く離れた国で評論家が書く教科書のような本とはワケが違う。
ドラマチックな私小説に限らずアメリカの小説には現実を直視したタフなストーリーが多い。日々の生活で凹んだ心に追い討ちをかけるように厳しい現実を突きつけられる。そして僕はまた凹む。ところが読み終えて全体を振り返えってみると、なかなか良い話だったことに気づく(笑)
日本人は明確なアドバイスを欲している。だから自己啓発本や実用書が売れる。けれどもアメリカの小説を読んでいると、文章の中から自分に合った生きるヒントを見つけ出さなければならない。手間はかかるが自分で見つけたヒントは末永く心に留まる、応用も効く。次はどんな本に出合えるかワクワクしてくる。そんなこんなで今月もつい「ポチリっ」ああ、Kindle恐るべし。
2011年12月記
今日の一枚
” ハイチのための日曜集会 ” アメリカ・ニューヨーク州・ニューヨーク 1992年
カイトランナー |