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タテ長映画のオドロオドロしき世界


子供のころから映画はもっぱら「テレビで観るもの」だった。「街に一軒も映画館がない」という環境がそうさせたのだ。今でも映画館に足を運ばないのは、おそらく当時の習慣をそのまま引きずっているのだろう。


そういえば、昔TVで観た映画の絵は、みな左右の幅が縮まっていた。シネマスコープサイズという横長の映像をテレビの4:3の画面に入れると必然的に横幅が半分以下に圧縮される。縦の長さはオリジナルのままだから相対的に絵は縦長になる。顔も建物もすべて縦に伸びていた。

「香港」という地名を聞いて真っ先に思い出すのが、このタテ長の映像で観たブルース・リーの映画だ。縦に長い絵は鋭利で危険な香りを増幅させる効果があるようだ。もし、それが横長の映像だったら、ちょっと太めの男たちが戦う「オトボケ戦隊風」になっていたかもしれない。縦に伸びることによってオドロオドロしくなった香港映画は、同じく縦長になった漢字のクレジットによって一層不気味さを増したのだ。

当時、ブルース・リーは絶大な人気を誇っていた。その人気にあやかって、時々香港ロケを行っていたのが「Gメン75」というTV番組だ。丹波哲郎とその部下たちが活躍する刑事モノだった。スペシャルでは「香港コネクション」を追ってGメンたちが現地に飛び、アクション派の倉田保昭らがマッチョな悪人たちと戦っていた。冷静に考えると、日本のGメンが香港まで出かけて行って、向こうの悪党と、よりによって生身の体で戦う必然性はどこにあるのだろう?という疑問が沸く。しかし、その辺は目をつぶるのが視聴者としての礼儀だろう。

こうして、僕の頭の中に生まれた香港のイメージは、「オドロオドロしいタテ長の街で、油断をしているとマッチョなヤツらにやられる」というとんでもなく偏ったものだった。しかし、実際の香港は想像以上に洗練されていて、あやしい雰囲気もなければ、目の前で警察と悪党とのアクションシーンが繰り広げられることもなかった。
それでも、「タテ長」という点だけはイメージ通りだったかもしれない。香港の風景は画面の比を変えなくても十分タテ長だった。横に並べるのでなく、あくまでも天に向かって積み上げて行く。香港の建築物にはある種の潔ささえ感じた。


ところで、その近代的な摩天楼が竹で組まれた足場で作られていくというのはご存知だろうか?夕日に浮かぶ建築中の楼閣。ふと、あの香港映画を思い出す。あっ、見えてきたゾ、オドロオドロしいタテ長映画の世界が・・・


2006年5月記



今日の一枚
” 竹の城 ” 中国・香港 2006年

シックス・バイ・セブンティーン




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