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残照


サハラ砂漠からパリに戻った。フランスの南西部、アキテーヌ地方に「良質の砂丘」が多いということを知り、そのままボルドー行きのTGVに飛び乗った。「砂の世界」から戻ってきたばかりだというのに、僕の心はまだ砂を欲しているようだ。


ボルドーからさらにローカル列車で小一時間、アルカションという海辺の町に着いた。カジノやホテル、レストランもオフシーズンの今はほとんど閉まっている。埠頭の桟橋もどこかもの悲しい。しかし、個人的にはそういう雰囲気は嫌いではないし、バケーションハウスもオフシーズン価格で借りることができた。

さて、肝心の砂丘はどこにあるかというと、街から10kmのところだ。森の中を抜け砂丘の入り口でバスを降りる。やがて木々の間に砂山が現れて、一気に登るとそこから先は遥か彼方まで砂の連なり。
砂丘の左側は深い森に、右側は海に落ち込んでいる。サハラとは砂丘を取り巻く環境が全く違う。周りの環境が違うと砂丘自体も全く違うものに見えてくる。


天気の良い日と悪い日が交互に訪れた。良い日を見計らって何度も砂丘に足を運んだ。雨の翌日は砂が締まっていて、砂の上にはいく筋も水の流れた跡が残っている。海から吹きつける風は肌を刺すように冷たい。2日前までモーリタニアの灼熱の砂の上を歩いていたと思うと不思議な気持ちになった。ビュービューと風の音だけが聞こえる砂丘の上でシャッターをきった。ひとりごとのように言葉を発してみる。声は反響することなくポトポトとその場に落ち、瞬く間に砂粒の隙間に吸い込まれていった。

空は鉛色の雲で覆われ、海の遥か沖合いに薄日が漏れる。それはまるで去っていく季節の残照のようだ。
その日、僕は砂丘の上で冬の訪れを知った。それは欧州独特の長く湿潤な冬だった。


2005年11月記



今日の一枚
”過ぎ去った季節の残照” フランス・アルカション 1999年


砂漠の端を歩いた




fumikatz osada photographie