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おばあさんの私書箱


クリスティンとバッキーの姉妹は今年も、9月はじめのレイバーデイの連休にナンタケットのユースホステルで落ち合った。

子供の頃は島の祖母の家で夏休みを過ごすのが恒例だった、しかし、祖母が他界してからはこのYHで夏の終わりの休日を過ごすことにしている。ふたりとも今はそれぞれの生活を持ち、姉のクリスティンはメーン州から、妹のバッキーは西海岸のシアトルからケープコッドにやってくる。滞在のしかたこそ変わったが、ナンタケットはふたりにとって慣れ親しんだ庭だ。

島の東の端に集落があって木造の古い郵便局がある。「おばあさんの私書箱がまだ残っているかどうか見て来て欲しい」と、ふたりに頼まれたので立ち寄ってみた。古い図書館のようなにおいのする建物の中に入ると、木製の下駄箱のようなものが並んでいた。
「ははあ、これが私書箱だな」と思い教えてもらった名前を探す。あっ、あった。ホルダーに収まったすっかり色の褪せたカードに彼女の名前がタイプされていた。古い郵便局の片隅で、主人のいなくなった私書箱は今も静かに手紙を待ち続けていた。


現在進行形で夏を謳歌するもの。過ぎた日の夏を懐かしむもの。ケープコッドにはそこかしこに夏の物語が散りばめられていた。そこで出会った人たちのことを思い返しながら、僕はニューヨークに戻る仕度をした。季節は秋に変わろうとしていた。


2005年9月記



今日の一枚
”ナンタケットの窓辺” アメリカ・マサチューセッツ州 ナンタケット 1992年




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