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何もかもロシアのせい その4


住民投票に関する追記


住民投票について、9月26日付けの毎日新聞は第一面でこんな記事を載せている。
先に書いたP.ランカスター氏のビデオ訳の現地の市民の声と比較しながら読んでみて欲しい。

住民投票「露軍が強制」ウクライナ4州戸別訪問、脅し

ロシアがウクライナ東部と南部の4州で実施している「住民投票」を巡り、ウクライナ当局は住民が投票を「強制されている」と非難している。 ロシア兵が住宅を戸別訪問して投票用紙に書かせたり、投票しない労働者を「解雇する」と脅したりしているという。・・・
ウクライナ紙によると、南部ザポロジェ州エネルゴダールのオルロフ市長は24日、通信アプリへの投稿で、ロシア兵がアパートを戸別訪問し、銃を突きつけながら投票用紙を記入させていると指摘した。 また、東部ドネツク州マリウポリのアンドリュシチェンコ市長顧問は24日、ロシア側が市内の企業を訪れ、従業員に「投票するか、職と給料を失うか」のどちらかを選ぶように促し、脅迫していると非難した。 多くの市民が投票を避けるため市街に脱出しているという・・・


実際にその場にいない人間の話を記事にするとこれほど事実は捻じ曲げられるのだな、と半ば感心する。
私の予想通り、街を逃げ出したウクライナ側の市長が遥か彼方からSNSアプリで街の現状を語り、噂をたれ流す。 日本の新聞は相変わらす現地で取材すら行わずウクライナ側の発表のコピペに終始した。 現地の市民たちもウクライナ側のフェイクニュースは百も承知だ。ビデオの訳文を読んでいただければおわかりだろう。

ウクライナ政府から流される「風評」には特徴がある。ひとつひとつの出来事は事実なのだが悪意ある解釈をしてそこから妄想の世界に入っていく。 すなわち、「自宅での投票も選べる」のは事実だが、兵士が銃を突きつけながら投票用紙に記入させられるというのは作り話。 「職場での投票が可能」だがロシア側の役人が企業を訪れ脅迫しているというのは嘘という具合に。 多くの市民が脱出しているというが「多く」とはどれほどか明らかにしない。 実際にウクライナ支持派住民は少数派で、マリウポリ市民の7割はロシア人だと住民が語っていた。街を訪れたことのある私の実感も同じ。
記事は途中から見出しとは全く関係のないロシアの部分的動員令に反対するプーチン大統領に対する抗議デモの内容に変わる。 さらにこの記事の署名はエルサレムとニューヨーク駐在の記者。
現場で取材せずにいったい何がわかるのだろうか? 何より情けないのはこうした「風評レベル」の記事を日本の三大新聞の一つが(おそらく他のマスコミも)堂々と一面に載せているところだ。 (恥ずかしいことに私はこの新聞に毎月購読料を払っている)

P.ランカスター氏の住民投票のリポートの再生回数はわずか10万回程度。 一方、日本のテレビニュースの「プーチン大統領に対する抗議デモ」の動画再生回数は100万回。 一体、日本人はウクライナ南東部の住民の平和を本当に望んでいるのだろうか?単純にロシアを叩きたいだけではないだろうか?



住民投票の結果

ロシア編入に対して「賛成」の票を投じた人の割合は
ヘルソン州で87%、ザポリージャ州は93.1%、ルガンスク人民共和国で98.4%、戦闘の激しかったマリウポリを含むドネツク人民共和国は99.2%。(euronews.comより)
結果、ウクライナの国土の15%がロシアになった。先にロシアに併合されたクリミアを含むとウクライナの国土の20%以上がロシアになったわけだ。
これをロシアに対する全面的な悪意を持って解すれば、ロシアがウクライナの国土の5分の1を「占領」したことになり。 住民とロシア側に立てばウクライナ政府の差別と圧政に耐えかねた国土の5分の1の住民たちがウクライナ政府を見限りロシアに保護を求めたということになる。
市民の声を聴く限り真実は後者だろう。 ところが不条理なのは住民が自分たちの平和と将来を考えて投じた「YES」に対して世界(実際には欧米と日本だけ)が「NO」と言っているところだ。 これはクリミアの時も同様。理由は国際法上違法だから。
ロシア政府の人権侵害は過剰なまでに叩くのに、ウクライナ政府の人権侵害はみごとに黙殺される。この流れは何とも不気味だ。 ロシアがルーツの住民に対して「ロシアと関わっているのが悪い。死んでくれ」と世界が言っているのだ。

この地域に住む住民の大多数はロシア系。ウクライナ政府に人権も自由も奪われた。 母語の使用も禁じられる中ずっとこの政権の下で弾圧され続けなければならないのだろうか? 社会保障も満足に払えない政府の下ギリギリの生活を続けなければならないのだろうか? 民主主義的な方法で政権に反論することも許されない。 そこに救いの手を差し伸べてくれるのが自分たちのルーツ「ロシア」となれば住民たちがそれにすがるのは当然ではないだろうか?


そもそも、2014年に始まるウクライナ戦争がこの構図でできている。 ウクライナ政府の排露、民族浄化の圧政と親露派地域(ドンバス)への無差別攻撃に耐えかねたプーチン大統領が援護射撃に回った。 これに対する西側諸国の反応はご存じの通り。スタート地点の認識を誤るとすべて誤る。
テレビのコメンテーターの「一方的ロシア批判」や「ウクライナの国民と共に」と高らかに訴えるアーティストを見ると「ああ、この人たちは無知なんだなぁ」と思う。 この人たちの頭の中ではウクライナは100%ウクライナ人で構成され、大国ロシアに侵略されているとしか考えられないのだなと。
クリミア統合以後、私は世界のあちこちでロシア人と話した。大半は欧州で生活する人、西側のメディアに日常さらされている人々だ。 彼らでさえウクライナ政府のやっていることに対しては極めて冷ややかだった。日本でのウクライナ報道とあまりにも温度差があって驚いた。
経緯を知れば知るほどウクライナ戦争に関する意見は割れてくるはず。 にもかかわらず、日本のウクライナ一辺倒の報道と政府・国民の認識は世界的に見ても極めて異常だ。 この「井の中の蛙」的な認識のズレは大きな痛手となって跳ね返ってきている。



何もかもロシアのせい

物価高、原油高、サプライチェーンの乱れ。日本ではなにもかもロシアのウクライナ侵攻のせいだと報道される。
いやいや、ロシアのせいではないでしょう。 あえていうなら、ロシアへの経済制裁というウクライナ戦争に対する間違った対応をしたために日本を含む欧米諸国はしっぺ返しをくらっただけだ。
天然ガスも石油も欧州諸国がロシアから輸入できなくなればほかの国から輸入しなければばらない。
コロナや石油離れからの消費減で石油がだぶつき原油価格は下がる傾向だし、欧州で中東の石油への依存度が高まれば足元を見た中東産油国は高値維持のため減産を続ける。中東とロシアで作るOPECプラスは来月さらなる石油の減産を予定しているそうだ。


我慢たまらず英国のタンカーがロシアからの密輸原油をギリシャ沖で裏取引して欧州に流しているというのだからまさに狂騒曲である。
アラブ諸国は自国の原油が高すぎるから安いロシア産原油を買っているそうだ。まるで落語のようだ。
今夏にプーチン大統領が経済制裁の報復として出資する日本企業に対し、運営のすべてをロシアの企業に譲渡する旨に署名したLNGプラント・サハリン2。日本の天然ガス輸入量の約1割を依存するこのプラントへの日本企業の出資は結局今も続いている。


資源のある国アメリカは物価高で苦しみ、対策の一環としての利上げはドル高を招く。 未だに金融緩和を続ける日本は金利格差によって通貨安になる。
輸入コストがかさめば日本の物価も上昇する。いつかはこうなると予測できたのに、金融緩和の出口政策を考えていなかったのは政府・日銀のせい。
こっそり値上げをしていた企業も「物価高騰」の免罪符を得て堂々と値上げを始めた。
サプライチェーンの乱れは中国のロックダウンや半導体不足のせい。 ここぞとばかりになんでもロシアのせいにするのはちょっと虫が良すぎるのではないだろうか。


ウクライナ戦争でロシアに対して経済制裁を行っているのは世界の4分の1の国々にすぎない。
日本や欧州諸国など安易に経済制裁を下した国がことごとくしっぺ返しをくらっている一方、 中立的立場をとった国、この内戦から距離をとった国では「ロシア制裁」絡みのエネルギー危機は起きていない。

「経済の安全保障」なんて言葉が叫ばれるようになって久しけれど、本来自由な経済活動こそが安全保障につながるのではないだろうか?
「金の下にはすべて平等」人種や政治信条で客を選ぶ商売人は良い商売人とはいえない。
よりお金を払ってくれる客、多く品物を買ってくれる客に売る。買い手はより安く良い商品を売ってくれる売り手を探す。 こういう割り切った関係が経済の持つ公平性、平和性だ。

A国の原油が高ければB国の原油を買えばいい。隣国と行う資源開発のプロジェクトがあるならば止まることなくそれを進めればよい。 民間の大企業ならそんなことは朝飯前だろう。 イラン人は僕にこうつぶやいた「もっとイランの石油を買ってくれ。お安くしときまっせ」 サハリン1はLNG同様石油も産出する。ところが政治がその邪魔をする、経済制裁や経済の安全保障で。


ブロック経済がかつて第二次大戦の一因となったことを考えてもわかるように、政治が経済に手を突っ込むことは安全保障どころか国民を危険に晒すだけだ。
グローバル化した世界経済の下、国と国との外交関係が怪しくなっても国際経済は別軸で淡々とまわっていて欲しい。 21世紀の今でもそれは夢なんだろうか?
小さな国の国家予算をしのぐような利益を上げている世界的大企業ですら政府のバカげた外交政策に抗うことができない現実はなんとも悲しい。


先日、アジアでロシア経済制裁の旗振り役を務めている日本の首相が国連総会で演説を行った。
国連の信頼が失われつつあり、その原因は安保理常任理事国のロシアがウクライナに侵攻したから。
安保理常任理事会の改革(ロシア外し)が必要だとの旨を述べた。
そもそも戦争においてどちらか一方に圧倒的に非があるなどといったことはない。
米国と異なった意見を持つ国が次々と安保理常任理事国からはずされ、非難決議が日本の閣議決定のごとくホイホイと決まっていくとしたらそんな恐ろしいことはない。


米国に追従するだけのこの国が来年安保理の非常任理事国になるそうだ。
隣国を挑発し、反発すれば怒る。話し合いのテーブルに着くこともせず。ただ負け犬の遠吠えののごとく非難し、他国に同意を求める。 結局、問題は何一つ解決しない。日本政府はなんとなくウクライナ政府に似ている。
中国とも韓国とも北朝鮮ともロシアとも仲違いして、いったいこの国はどの隣国とうまくやっていけるのだろうか? 海の向こうの米国だろうか?
お隣さんともコミュニケーションが取れない国に果たして非常任理事国として世界の平和が構築できるだろうか?



2022年10月記


今日の一枚
” 街角のスケッチ ” ウクライナ・ドネツク 2009年







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