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深さがわからん その1


「ザブーン!」「ザブーン!」若者2人が立て続けにミナレット(モスクの尖塔)の傍の貯水池に飛び込む。写真を撮っていたら「一緒に飛び込み込もうよ」と声を掛けられた。ウズベキスタンのブハラは初夏を通り越して夏のような日差しである。へへえ、飛び込んじゃおっかな・・いややめておこう。おじさんは跳躍力不足で石段にひどく腹を打ちつけるであろうよ。池自体は飛び込むのに十分な深さがあるとのこと。しかし、生ぬるそうな水は茶色くにごって底はまったく見えない。


僕がウズベキスタンという国に持った印象はこの貯水池によく似ている。深さがまったく分からないのだ。ソ連時代の官憲主義が残っているのか、イスラムの戒律に厳格なのか、アジアなのか西洋なのか、どういう人が暮らしているのか、どのくらい近代化が進んでいるのか?
そこであれこれ予習することにした。なになに「カザフスタンーウズベキスタン国境ではとても厳しくボディチェックされる。もちろん、スマホの中の写真まで・・・少しでも書類に不備があればつけこまれ賄賂を要求される。出入国するウズベキスタン人で溢れかえり、国境を抜けるのに数時間かかる」こりゃあ大変だ。


カザフスタンのシムケントから国境までタクシーに乗り合わせたロシア人とカザフスタン人に入国書類の書き方を教えてもらった。二人はリピーターらしい。心強い味方ができた。しかし、彼らは最後にこう付け加えたのだ。「いいかい、ウズベキスタンの国境には民主主義はないんだ。あるのは混沌なのよ」えええ、ほんまでっか?
ところが、パスポートコントロールは思いのほかスムーズ。ごく普通の入国審査だ。ウズベキスタン人の長蛇の列もない。拍子抜けして思わず3人で肩をすくめた。なぜ状況が一変したのか分からないまま僕たちは別れた。


警官は確かに多く市街地のそこかしこに立っているが、特に職務質問をうけたり賄賂を要求されることもなかった。イスラム教の戒律はイランなどと比べれば遥かに緩やかだ。驚いたことに、祈りの時間を知らせる「アザーン」がモスクのスピーカーから流れない。ムスリムの国々では朝に昼に晩に必ず流れていたのに、ウズベキスタンやカザフスタンではそれがない。アザーンは自分にとってはいわば異国情緒を盛り上げるものだったから少し残念だ。日々変わる1日5回の礼拝時間はモスクに貼りだされた案内板に書かれていた。遅刻ギリギリで息を切らしてモスクに走り込む人を見たけど、あれはアザーンが流れないせいだな、たぶん。



2018年10月記



今日の一枚
” 古池や・・ ” ウズベキスタン・ブハラ 2017年




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