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サマルカンド VS ブハラ


フシダは鍋の取っ手を両手で握って、料理のための水をゴクゴクと飲み干した。ああ、美味しいという風に目を丸くして、フゥとため息をついた。その姿を見て僕は思わず吹き出してしまった。まだ、会って5分位なのにこのゲストハウスの女性オーナーは余りにも自然体だ。


「今日は何処から来はったん?」
フシダは僕の宿泊者カードに何やらせっせと書き込みながらそう聞いてきた。「サマルカンドです」と僕が答えると、彼女は首を振って隣にいる手伝いの女性に何やら話し始めた。
「どのお客さんもサマルカンド、サマルカンドって。そんなにサマルカンドがええの。ウズベキスタンにはここブハラのような美しい街がたくさんあるのに。あんな観光客だらけの街なんて私はよう行かん」
おそらく、そんなことを言っているのだろうというのは彼女の仕草で分かった。それに対して手伝いの女性は黙って微笑んでいた。
「で、サマルカンドは気に入られはったん?」ほら、やっぱりそういう話だったんだ(笑)


僕の答えは「気に入った」だ。観光立国ウズベキスタンの中でもサマルカンドは目玉だ。修学旅行の高校生、ロシアやカザフスタンからの旅行者・・とレギスタン広場は今日も国内外からの観光客で溢れかえっている。
天邪鬼なので「こういう観光地は行っても楽しめないだろう」とタカをくくっていたのだが見事に裏切られた。僕はその歴史建築と街の雰囲気に素直に感動してしまった。レギスタン広場を囲む3棟のマドラサ神学校の勇姿、目の覚めるような青のドーム、グリ・アミール霊廟の荘厳な佇まい。イラン・エスファファンのイマーム広場よりもギュッと濃縮された美しさがある。もう、サマルカンドに脱帽ですわ。


首都タシュケントを東京に例えれば、サマルカンドはウズベキスタンの京都。なんとウズベキスタンにも超特急が走ってる。その超特急はさらに西に伸び、ここブハラまで来ている。となればブハラは日本の大阪か?いや、それほど大きな商業都市ではない。歴史ある古都だ。となればブハラは・・奈良ですかね。
日干し煉瓦の赤茶けた建築で覆われた旧市街は悠久のオアシスである。美しいミナレットもある。ただ、煌びやかなサマルカンドに比べると色彩的にも地味だ。渋い。圧倒的に静か。僕が好きなのは元来こういう街のはずだ。しかし、なぜか感動はなかった。たぶんこの手の街は初めてではないからだ。例えばイランのヤズドも砂漠のオアシスだった。旧市街の迷路の規模で行くとやはりヤズドの方が荘厳だ。海外からの観光客も多いが、サマルカンドほどではない。どちらかといえば国内の観光客が多い気もする。歴史的建造物と生活の場が一体になっている。つまり町全体の雰囲気を楽しむのがブハラかな。
ちなみに列車で丸1日かけて西に行くともうひとつヒヴァというオアシスがある。


「ブハラとサマルカンドどっちが良かった?」去り際にフシダに聞かれた。古都同士、対抗意識があるのかも。「うーん、同じくらいかなぁ」と僕。ブハラにいるのだから少しは肩入れしてあげたいところだが、正直な僕にはいわゆる「奈良判定」はできなかったよ。一方、サマルカンドの人はこういうことを聞いてこないだろうなという確信めいたものがある。「あちらさんはあちらさん。うちはうち」みたいな横綱相撲。だからといって、サマルカンドの人たちがお高く留まっているか、というとそうではなくみな親切。そこのところがブハラ人としてはまたなんとも歯がゆいんですな。



2018年9月記



今日の一枚
” ポートレイト ” ウズベキスタン・サマルカンド 2017年




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