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インドは今でも旅のスタンダードか? その1


インドのジョードプルという街からプシュカル行きの急行バスに乗ろうとしていた。比較的早めにバスターミナルに着き、乗車口の前にいる家族連れに行き先を確認し席に着いた。なんだかスムーズに行き過ぎている。こういう時はオチがあったりするから気をつけた方がいい。例えばバス乗り間違えてるとか・・・


15分も走るとバスはもうすっかり郊外に出た。検札が来る。
「切符を拝見・・・」しばし無言。「違う。バス乗り間違えてますよ。このバスはプシュカルには行きません」ああぁ、やっぱり・・・「じゃ、降ります。逆方向のバスでターミナルへ戻りますから」と僕。そのくらいしか手立てはないような気がした。でも、バスなんか来るのだろうかこんな田舎に。ヒッチハイクでもするか。あれこれ考えてる僕に先ほどの車掌は「まあまあ、しばらく乗っていなさい」と言った。


やがてバスは路肩に止まった。「ささ、降りてください」そこは田舎の小さな停留所だ。併設された券売小屋の係員に車掌は事情を話してくれていた。そして僕を振り返って。「ここで待って次のバスに乗ってちょうだい」そういい残してバスに戻って行った。
ま、この程度のハプニングはどうってことないか。インドの冬の太陽は頭上に登っても暑すぎることもなく心地よいし。でも、こんな田舎道にどれほどの頻度でバスが通るのだろうか?バス停にいるおばさんはもう待ちくたびれてる気配。ひっきりなしに直線道路を見やる。
やがて、そのおばさんが切符売り場の係員に何か告げる。すると今度は係員が出てきて僕に「バスが来ましたよ。乗ってください」と言った。間違ってもすぐに修正できる。合理的ですな。


程なくバスが止まった。さっきまで乗っていたバスとは全然違う、満員の車内。これは明らかにインドの路線バスだ。しかし、この時はまだまだ序の口。そのあとバスが街を通り過ぎる度に乗客は増え続け、最後は僕の膝の上に子供が座った。ムリヤリでも乗り込もうとしていた乗客たちもやがて諦めるようになった。みんな文句も言わずすし詰めの満員バスに揺られている。インド製の無骨なバスは土ぼこりを舞い上げながら軽快に飛ばす。開け放った窓から原野の心地よい風が車内に入って来る。
急行バスで3時間の予定だった旅は、結局、路線バスで6時間の旅になった。しかし、全く退屈しなかった。インドの人たちの日常生活を観察するのはメチャメチャ疲れるけど実に楽しいのだ。車窓の風景もまたすばらしい。バスを乗り間違えて良かった・・・と言い聞かせておこう。


2013年5月記



今日の一枚
” バス停 ” インド・ジョードプル 2012年




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