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NRT


十数年ぶりに海外で年を越した。などと書くと芸能人みたいだが、残念ながら僕が行ったのは「ワイハ」ではなくインド。しかも、年越しも厳密には空の上。国際線だから時差の関係でいつ年が明けたのよくわからない。何だかぼんやりとした年明けだった。せめて雲の上ならきれいな初日の出も見られようものだが、あいにく日の出は着陸後。上海の浦東空港の乗り換えロビーで雲の隙間からかすかに顔を出した元日の太陽を、僕は寝不足顔でぼーっと眺めていた。


大晦日の晩に飛行機で移動しなければならなくなった理由は「インターネットでチケットを探したらその便がリストのトップに来た」ただそれだけ。最近はそんな旅程の立て方が多くなった。コンピューターがピックアップした乗り継ぎ便の中から最もよさそうなものを選ぶ。あまり乗り継ぎ時間が短いとトランシーバーをもった空港係員につれられて見知らぬ国の見知らぬ空港の中を走ることになる。なんとか搭乗時間に滑り込みセーフ「はぁはぁはぁ、Mr.Osadaここにいますっ」
とまあ、こういう風にならないように数多ある便の中から自分でよく吟味しなければならない。実はそれもまた飛行機好きの僕にとってはささやかな楽しみのひとつなのだ。


こうした航空会社のハブ空港戦略のおかげで、直行便全盛の頃にはありえなかったほど多くの空港を利用するようになった。そこで感じるのは、アジアもアフリカも新興国の空港はどこも大きく、明るく、新しく、きれいということだ。しかし、最近僕はこの近代的な空港というやつに少々食傷気味だった。
近代空港の設計にあたっては個性を出すために著名な建築家が腕を競っているに違いない。しかし、高い天井、広々とした空間、鉄骨の造形、大きなガラスエリア、明るさみたいなものを追求した結果、皮肉にもどこも同じような雰囲気になってしまっているからだ。


ところが、正月に成田空港に着陸して、ゲートへの地上走行中に機窓から空港の建物を見たときに僕はこう思った。「おや?成田空港って個性的でカッコいいかも」
奇抜なデザインもそそり立つ白い鉄骨もない、強大なガラスエリアもない。ただただ、埋まる様にグレーの空港棟が整然と並んでいる。その中ほどに管制塔だけが新年の水色の青空をバックにニョキっと立っている。なんとなく重厚でいい感じ。こういう景色にはアジアやアフリカの空港ではなかなかお目にかかれない。


機を降りると第二旅客ターミナルのサテライトのインテリアは、天井が低く、絨毯が敷き詰められていてこれまた実に新鮮。「和」のテイストを意識してデザインされたのであろうか、お城の広間あるいは老舗旅館のような雰囲気も漂う。
無人運転の列車に乗り本館に入ると少しだけデザインの統一感が崩れ、税関を抜け到着ロビーに出ると一気に「俗」が入って来る。それでも、空港前の車寄せなどは他のアジアの巨大空港と比べれば実に静かで落ち着いている。


ハブ空港の主権争いにはついに加われなかった成田空港(NRT)だが、その古典的雰囲気が逆に個性になっているのはなんだか面白い。旅行者の交差点のようなワサワサとしたアジアの大空港の中にあって、こうした奥座敷みたいに落ち着いた佇まいの国際空港がひとつぐらいあってもいいような気がする。


2013年1月記



今日の一枚
” エアポートジョグ ” タイ・バンコク・スワンナブーム国際空港 2012年




fumikatz osada photographie