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とりあえず春


とある調査によれば、日本の大学生の就職先としてもっとも人気があるのは・・・なんと「公務員」だそうだ。資本主義のこの国で若者たちは公務員になりたがっている。一体、世界的にこういう志向なのか機会があれば海外の友人の話を聞いてみたい。
まあ、衰退の一途を辿る日本の社会を、この若者たちが公務員になって変えたいという強い意志を持っているならなんとも頼もしい限りだ。ところがどうもそうではないらしい。


ここにデータがもうひとつ、大学生の人気企業ランキングというのがある。上位は総合商社、生保、メガバンク、大手家電メーカーと大企業がずらり。考えてみれば僕らの学生時代も同じだった。ただ、時代と共に学生たちの志向は少しずつ変わっているようだ。僕らの時代は「給料」と「ネームバリュー」だった。しかし今は「安定しているかどうか?」ということらしい。「寄らば大樹の陰」とはよくいうが、「だいたいこの業種の一流企業に勤めておけば倒産も失業もなく定年まで逃げ込めるだろう」というのがこういう企業を志す理由か。
となれば、先の「公務員を志す理由」というのも、「この国は私が変える!」というスーパーヒーロー的な意志ではなく、「親方日の丸なら倒産もない」といった程度の気持ちなのかなと思えてくる。
けれども、今経済の低迷に伴ってそういった安定への期待すら大きく揺らいでいる。大企業でも生き残れる保障はないし、自分がリストラの対象にならないとも限らない。一方、公務員の新規採用を50%減らすなんて話も出ているし、すでに期間限定の非正規雇用公務員などは数多いる。結局のところ「安牌」はなくなったのである。


今回は調査で攻めまくろう(笑)新成人に対するアンケート「日本の将来は暗い」という回答80%、「自分たちが日本を変えたい」いうのがやはり80%。
さてここまでのおさらい。日本の若者たちは将来に対して不安を抱いている。「このままではダメだ。自分たちが日本を変えなければ」と抱負を述べたものの、やはり背に腹は変えられない。とりあえずは既存の流れに身を置こう。そして月日は経ち「そろそろ日本を変えねば」と思っても足腰立たなくなっている。あるものは成人の日の誓いなんぞ遠の昔に忘れてしまい日常に埋没してしまう。そして日本は永遠に変わらない。変わらないだけなら良いが下手をするとジリ貧になるかもしれない。国がなくなるかもしれない。


こうした「事なかれ主義」というのは別に今に始まったことではない。「それじゃ、オジサンたちの学生時代はどうだったの?」と聞かれればもっとチャランポランだった。それでも好調な経済がそれを許してくれた。今そうしたツケがまわってきている。だからこのいわば最終局面で社会に出てゆく若者は非常に気の毒だ。
しかし、その一方で世界に目をむければ「アラブの春」、フランスの「年金制度」や「研修期間(非正規雇用期間)の待遇改善」についての大規模なデモ、アメリカでの格差社会に対する抗議、と若者たちはきちんと意見を持ちなんらかのアクションをとっているのも事実。


先日、上海で3人の日本人大学生と知り合った。その中の一人はようやく大手企業から内定をもらい卒業旅行。就職氷河期といわれる中、企業から内定をもらえたのだから、さぞかし嬉しいことだろう4月からは晴れて新社会人である。他の一人は上海の大学で中国語の語学留学中。これからますます中国との関係が深まってゆくだろうから、そのときは日中の橋渡し役、いやアジアで活躍する日本人になるんだろうな。そしてもう一人、こちらは就職活動がうまく行かずドイツの大学院への進学を決意した。経済と大震災による閉塞感の中で日本の未来に不安を感じて欧州へ、願わくば卒業後はドイツで暮らして行きたい。この気持ちもよくわかる。
おそらく正解なんてない。どの選択も正しい。大事なのは自分の直感を信じて今自分がやりたいこと、やるべきことをやることだ。10年後なんて誰にも予想がつかないのだから、つまらぬ先読みなんてしない方がいい。10年後を待っているのはもっと愚かだ。というわけで、ここは素直にエールを贈るとしよう。


就職内定率80%の世の中でもとりあえず春は来る。


2012年3月記



今日の一枚
” 桜 ” 日本・埼玉 2011年




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