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お菓子が遠い


キューバの話を書こう。例によってもう遥か昔の話だ。


モノが溢れかえる国からキューバを訪れると戸惑いを覚える。圧倒的にモノが少ないからだ。「商品がすごく遠い」僕が感じたキューバの印象を一言で言うとそうなる。

例えば道端の駄菓子屋。「お菓子」とボール紙に書かれた店先。ガラスの無い窓には鉄格子がはまっている。では、本題のお菓子はどこにあるのか?と窓から中を覗く。家の中は外の日差しとは対照的に薄暗い。その部屋の遥か奥の方にごお寺の本尊のようにショーウィンドーが鎮座していて、ガラスのケースの中にポツンとお菓子の袋がひとつだけ置かれている。それが何のお菓子か確認するためには双眼鏡が必要だ。冗談ではない。真面目な話だ。

行列もしばしば見かけた。公園の中のアイスクリームパーラー「コッペリア」には建物をぐるりと取り巻くような長蛇の列。また、ハバナのあちこちにオープンし始めた「ショッピングセンター」には大概、開店時間前から行列が出来ていた。人々は扉の開くのを待ちきれない様子で店の中を覗き込んでいる。
それでは、そのショッピングセンターの中に山ほど商品が並んでいるのかといえば決してそうではなく、あの「駄菓子屋」のように信じられないほどの薄い密度で商品が陳列されているのであった。
「お目当ての商品を手に入れるぞ」「今日こそは品物が入荷してるに違いない」
行列の顔にはそういった並々ならぬ決意や期待というものが明らかに見て取れた。

モノだけが溢れかえる社会に少々食傷気味の自分。しかし、そんな僕でさえ当時のキューバの経済状態は気の毒に思え、もう少しだけ御慈悲をと願ったものだ。


あれから12年が経過してどうだろう、キューバの経済は改善したかな?そう思い始めるとまた無性に僕のキューバの虫が騒ぎ始めるのであった。

2009年8月記



今日の一枚
”ショッピングセンター ” キューバ・ハバナ 1998年




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