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グリーン・モンスター


とある写真家の話で大変面白いと思ったことがある。それは撮影のために何日もジャングルの中で撮影をした時、その日の体調によって周りの木々が「大変恐ろしい怪物」に見えることがあるというものだ。もちろんその逆もあって、体調の良い時、精神的にリラックスしている時には自分を取り巻く自然というのは大変安らかなものに見えるらしい。

「なるほどなあ」と思った。僕自身もそう感じることがあるからだ。考えてみると人間より動物の方が、そして動物よりも植物の方がその姿かたちはずっとバラエティに富んでいる。その奇妙な植物の姿が「怪物」のように見えることも当然ありえるだろう。
夜静かな森の中にいる時に「自分は今沢山の生命に囲まれているんだ。だから、寂しくなんかない」と感じるか「なんだか沢山の木々に見られているような気がして気味が悪い」と感じるかは最終的には受け手の気持ち次第であるというわけだ。


そこで僕は、ふとドイツの写真家・カール・ブロスフェルト(1865-1932)の写真を思い出した。それは簡素なボール紙を背景に手作りのカメラで撮影した植物の静物写真だ。葉であったり幼芽であったり、その被写体は非常に小さな植物の一部分なのだが、見る人の想像力を掻き立てる。あるものは歌を歌う人間のように、あるものは鋼のコイルばねのように、そしてあるものは建築物のようにも見える。一旦思い始めるとますますそれらしく見えてくるから不思議だ。


そういった好奇の目をもって自分の周りの植物を見渡すと面白い。たとえそれが人によって刈り込まれた街路樹の植え込みであってもなんだか別のものに見えて来る。
実はこれ、錆付いたイマジネーションの刃を研ぐ非常に安上がりな僕のトレーニングだったりする。


2009年6月記



今日の一枚
”グリーン・モンスター#2 ” 日本・埼玉県 2009年




fumikatz osada photographie