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気候が美人を育むのだろうか?


ベトナムの真ん中、ダナンという町にいた。清々しい光の中、僕はホテルのテラスで朝食のテーブルに着く。こういうのんびりした朝もいいものだ。今日は東京に戻らなければいけない。その前にまず、ここダナンからハノイまでのフライトだ。「何時の便だっけ?」コーヒーを啜りながら、数日前に購入した航空券の券面に目を落とす。11:00。「よし、あと1時間半あるな。行き先はダナンから・・・ホーチミン」「あれ?」「ハノイじゃない・・・」一瞬背筋が冷たくなって、僕の優雅な朝はここで一気に転調、急にアップテンポになった。

1階の受付に血相を変えて飛び込む。「き、近所にベトナム航空のオフィスありませんかぁ」結局、いつものあわただしい朝になってしまった(笑)僕の慌てぶりとは対照的に、アオザイ姿の美人受付嬢はいたって冷静。事の一部始終を聞き終えると「航空券と5000ドンをちょうだい」と言った。彼女は僕にしばらくロビーで待つように言い残すと、そのままセオム(バイクタクシー)の背に飛び乗り走り去った。さて、この結末はいかに?


言われたとおり僕はロビーのソファーに腰を下ろす。中庭の植物には溢れんばかりのベトナムの光が降り注いでいる。こんな切羽詰った状況でも楽観的に構えられるのは、この街の穏やかな気候のせいかもしれない。雨に濡れ苔生せる古都・フエから南に下り、海雲(ハイバン)峠を越えると気候が一変する。ダナンにはいつも太陽の光が降り注ぎ、海辺の公園には椰子の木陰ができている。 気候が人々の容姿や性格にも影響を与えるのだろうか、ここから南のホイアンにかけて僕が出会った人たちは、朗らかな人が多かったような気がする。そして太陽の光をたくさん浴びた美人も多かった。

あっ、アオザイの美人が戻ってきた。「はい、ハノイまでの航空券。それから、あの5000ドンはバイク代ね」券面はきちんと書き改められてあって、幸運なことに出発時刻も同じだった。本当に助かった。ありがとう。


やれやれ、なんとかハノイ行きの座席につくことができた。まもなく、フォッカーという小型ジェット機がふわりと離陸した。ダナン湾の上で緩やかに上昇の螺旋を描くと眼下にはベトナム戦争当時、米軍が「モンキーマウンテン」と呼んだソンチャー山が見えた。


2006年5月記



今日の一枚
” ポートレイト ” ベトナム・ホイアン 2005年




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