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300匹のミッキーマウス その1


島の真ん中にある展望台「なごみの塔」に登ると島のほぼ全体が見渡せる。先島諸島の竹富島はそんな小さな島だ。島の周囲9km人口およそ300人。そのうち3分の1が70歳以上の高齢者。 竹富島は集落全体が景観保存されている。車の通らない白砂の道、石垣、赤瓦の低い屋根、シーサー、静かな時間、きれいな海・・・おそらく、誰もが想像する「沖縄の風景」がそこにはある。三線を弾くこともできる。西表島の向こうに沈む夕日を眺めることもできる。夜、桟橋に寝そべると目の前には自分が落ちていきそうなほどの星の海がある。

島の一日は、白砂の道を箒で掃き清めることから始まる。やがて、6km離れた石垣島から観光客の訪れる時間になり、島内観光の水牛車からは、一日中、沖縄民謡「安里屋ユンタ」の三線の弾き語りが流れ続ける。日が沈む頃、日帰りの観光客は桟橋から石垣島へ帰って行き、泊まりの客は島の反対側の桟橋で夕日を見る。道は再び掃き清められて島の一日が終わる。


そんな風景の繰り返しのなか僕は1週間を過ごした。1週間のーんびり、何も考えずに過ごせるなんて極楽?いやいや、人間、暇になると余計なことまで考え始めてしまうものだ。僕は竹富島のことについてあれこれ考えてしまった。すると、素朴な島の生活に少しずつ濃密な空気を感じるようになり、圧迫感を抱くようになった。それは、この島が年間25万人の観光客を迎える観光地だからかもしれない。

さらに、竹富島の特殊なところは住民たちの生活の場と日常生活自体が観光客のアトラクションになっているということだ。つまり、竹富島には300匹のミッキーマウスがいる。塵ひとつ落ちていない道、観光客と一体化した地域の行事、祭り、宿泊客のために三線を弾く民宿の「おじぃミッキー」たち。僕を落ち着かせなくさせるのはこの「テーマパークにいるような感じ」かもしれない。そして、島の気分に浸れば浸るほど自分が島の外の人間であること、観光客であることを自覚させられるのだった。


2005年9月記



今日の一枚
”なごみの塔” 日本・沖縄県竹富島 2002年




fumikatz osada photographie