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English |
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アラベジの団地に滞在してもう何日目だろうか?今日は快晴だ。僕はふと先日テラスから見た十字架のことを思い出した。よし、今日はあの正体を確かめに行こう。 たしか、十字架は団地の裏山だった。地図で調べるとアコリという村がある。今まで訪れた町と同様にそこも河岸段丘上に位置する。 山に向かって歩いて行くと墓地があった。花を手向ける家族。年老いた墓掘りがふたり、墓穴を掘っている。近寄ってカメラを向けると「ああ、撮るな撮るな」と酒の匂いをさせながら手を振った。 村の道を墓参帰りの母娘が手を携えて歩いている。昔ながらの木造家屋の屋根にはパラボラではなく針金細工のような地上波用のアンテナが立っている。 このアコリは観光地ではない素朴な田舎の村。むしろこちらがアルメニアの地方の風景の典型なのかも。 村の端は断崖絶壁になっていた。もちろん下はアラベルジの旧市街。そうだ、僕は銀色に輝く十字架を確かめに来たのだった。僕の部屋から見上げた辺りへと急ぐ。見慣れない客に気づいて近所の少年が自転車で並走する。 真新しい自転車。買ってもらったばかりなのかな?自転車はかっこいいけど断崖からの眺望を楽しませてよ。 おお、すごい。アラベルジ旧市街と工場が一望できるではないか。右手の崖の上には先日訪れた新市街が見える。ふたつの町の位置関係、河岸段丘のなんたるかが一目瞭然だ。
段丘は左右対称ではなく大抵片岸だけだ。もう片岸は普通の斜面になっている。つまり、蛇行する川の内側に堆積物がたまり段丘になるということか。 先程の少年からの知らせを受けたのか、羊飼いの老人がこちらへやってきた。「中国人?」「いいえ、日本人です」そう尋ねて彼はタバコを差し出した。「すいません、吸いません」僕は何を言ってんだ(笑)
それ以上のロシア語やアルメニア語の語彙は僕にはなく、あとはふたり無言でアラベルジの俯瞰を眺めるだけ。鳥の目で見る銅山の町は思ったより小さかった。 老人に別れを告げ僕は村の道路に向かって歩き始めた。ふと、彼方を眺めると彼の姿はもう遠に小さくなって羊たちの群れに同化しようとしていた。 ようやく土地勘もついた旧市街を総集編のように歩く。明日、僕は首都のエレバンに発つ。 一週間近く滞在するとそこそこ顔を覚えてもらえるもので、いつも渋い顔でビール飲んでた肉屋のオヤジさんも挨拶してくれるようになった。あれ?もう酔っ払ってるの? 銅山の町にまた新しい朝がやってきた。十字架に陽があたり、小学校の庭がきれいに掃き清められ、やがて教師たちがやってくる。僕は荷物をまとめマルシュ乗り場へと向かった。広場ではマリアさんがもう野菜の店を広げていた。 「え?今日発つの?エレバン?マルシュの乗り場はわかる?」「わかります。いろいろありがとう。写真送りますね」 これでこの銅山の町での滞在はおしまい。我ながら良い選択。なかなか面白い町だったな。1ヶ月位住んでみるともっと人とのつながりができたかも。それともうひとつ。稼働している銅山と精錬所を見たかった。もう再開されないのかな。ひとつの時代が終わったのかもしれない。 |
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