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楽園のボンネットバス その1


サモアの首都アピアのバスターミナルに行ってみると・・・あった、写真で見たとおりのカラフルなボンネットバスが。フィジー、トンガ、サモア・・・今回の旅の候補はいくつかあった。海の美しさはどの国も折り紙つき。そんな中、このクラシカルなバスが僕に強くサモアをアピールしてきた。


僕はこの風流な乗り物に何度か乗ったことがある。一番古い記憶は1970年頃、父の田舎、長野で乗ったボンネットバス。まだ、ワンマンではなく車掌が乗っているやつだ。地中海・マルタのバスは丸みを帯びた可愛らしいものだった。このサモアのボンネットバスはその鮮やかな色合いとデザインが南国のイメージにとてもマッチしている。だから、バスターミナルで実物の姿を拝んだときには思わず声を上げてしまったのだ。


しかし、近づいてよく見るとこのバス、どうやらベースはトラックのようだ。荷台部分を客室に改造してある。しかも車両は全て日本車。「TOYOTA」「NISSAN」というロゴがボンネットについている。
年季が入っているように見えるけどハンドルは右。サモアがニュージーランドやオーストラリアに倣って左側通行になったのはまだ最近(2009年)のことだから。この味のあるバスがいったいいつからサモア人の足として活躍しているのか、僕はいよいよ見当がつかなくなった。


バスは各々オーナーの好みに飾りつけられている。ボンネットの先端ではエンブレムの馬が跳ねている。車体にはバス会社と行き先の村の名前が書かれ、かと思えば最後尾にギターを抱えたプレスリーが描かれていたりする。とまあ、ここまで読んでお気づきかもしれないが、このバスは公営の交通機関ではない。サモアに大きな町はたったひとつ。それがここアピアであとは村しか存在しない。村人たちが通勤でアピアとの往復に利用するため、バスは各村の個人経営者によって運行されている。朝、超満員の通勤客を乗せたバスは島の各地からアピアを目指し、日中数往復した後、夕方再びぎゅう詰めの客を乗せて村々へ帰って行く。したがって、夕暮れのバスターミナルにはバスが一台もなくなる。


困ってしまうのはアピアを基点に島の名所を日帰りで楽しもうとする旅行者だ。午前中バスに乗って出かけたは良いがアピア行きの最終バスは午後3時ごろ、逃がしたらあとはヒッチハイクしか手が無い。もちろん島一周なんて優雅な路線も皆無、なぜならそんな路線は住民にはまったく必要ないからであ~る。



2019年4月記



今日の一枚
” スクラム ” サモア・アピア 2019年




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