<< magazine top >>










異郷の駅前食堂


旅番組が増えた。昔のようにドンドン海外に出かけて行く余裕がなくなり、内向きになって「まあ、旅番組でも見て旅行した気分になればいいや」という日本人が多くなったのかも。


自分なりに「ぶらり旅」の番組を3つのパターンに分けてみた。1つはナレーションバックに主観レンズもの。2つめはちょっと視点を引いて案内役の「一人旅感」を出したもの。3つめはタレント複数でワイワイガヤガヤの旅を撮ったもの。まあ、こんな感じでしょうかね。


1つめの主観ものは最初こそ「新しい」と思ったが、だんだんナレーションとカメラがかい離してきて、レンズの目線で一人旅をしている気分にはなれなくなった。3つ目のタレントのグループ旅行は見ていて楽しいのだが、 日本人同士の小さな関係を旅先に持ち込んでいるだけだから、バラエティー番組になってしまう。で、結局僕が好きなのは2番目のちょっと引いた視点で旅をするタレントの背中を追ったもののようだ。


さてやっと本題(笑)ここ半年ぐらい、僕がよく観ているパターン2の番組がある。お笑い芸人のヒロシ(以下敬称略)が旅をする「迷宮グルメ異郷の駅前食堂」(BS朝日)という番組だ。
番組はその名の通りヒロシが外国の見知らぬ街に降りたち、ローカルな料理を出す大衆食堂にエイヤっと入ってみるという設定。作り手はグルメ番組のつもりなのかも知れないが(タイトルからしてそうだろう)僕はむしろ食堂にたどり着くまでの行程が好きだ。街の散策とか地元民とのやりとりとか・・そのゆるい一人旅感がむしろこの番組の肝のような気がする。


それにしてもヒロシという芸人さんには旅心がある。上から目線過ぎる?ならば、この人の旅のスタイルには共感できる部分が多い。
流暢に外国語を話すわけではない、それでもそこそこコミュニケーションはとれている。さすが芸人、度胸が坐っている。しかし、ナイーブさみたいなものが時折ちらっと顔を覗かせる。考えてみればこの人は哀愁芸で売ったんだったっけ。
観察眼が鋭く小さなことに気がつく。しかし、時にそれを間違って解釈したりする。僕の旅もそんな感じだ(笑)この番組の素晴らしいところは、ヒロシの間違いにはきちっとスーパーで訂正が入るところだ。少なくとも僕の勘違いは一生訂正されずに残っているから。
番組はアジアと欧州の2本立てになっているが、どちらも同じスタンスで旅をし、同じように人と接しているところも素晴らしい。西洋の国だと背伸びしてしまう一方アジアだと見下すような番組もあるでしょ?


この番組を見て「私も次の休暇にぶらっと一人旅をしてみようかな」という気になる人も多いのではないだろうか。内向きな日本人をその気にさせる実に貴重な番組である。難をいえばタイトルが長い(笑)「異郷の駅前食堂」で良いのでは?
どうか、このゆるーい感じのまま末永くこの番組が続きますように・・・僕はかなり真剣に自分の旅のシミュレーションをさせてもらっておりますので。



2018年11月記



今日の一枚
” 定食 ” インドネシア・フローレス島 2018年




fumikatz osada photographie