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空色のタクシー


エチオピアの東部、ハラルはイスラム色の強い歴史の重みを感じる町だ。その町の中を鮮やかなスカイブルーで車体を塗られたタクシーが行き交う。車種はすべてプジョー404のセダン。ちなみにプジョーはフランスの自動車メーカー、404は車のモデル名・形式でもう40年も前に作られていた車である。


かつてアフリカの乗り合いタクシーといえば別名「プジョータクシー」といわれるくらいプジョーが一般的だった。しかし、それは元フランスの植民地西アフリカでの話。モデルも少し違って504の7席ワゴンが使われていた。
植民地を経験したことのないアフリカ大陸の東側のこの町で大量のプジョー404がまるで古代魚・シーラカンスのように生き延びているのかが僕には不思議だった。確かにフランスの詩人アルチュール・ランボーはこの町に住み着いて貿易を営んだけれども ランボーとプジョーはまさか関係あるまい。すこし気になったので調べてみた。本国では1975年に生産中止になった404は、アフリカ向けにその後も海外生産されていたようだ。この街に現存する車たちはその名残か。
いずれにせよ、そのクラシックな車体と簡素でカラフルな町並みが絶妙にマッチしているのは確かで、その風景は僕にキューバにいるような錯覚を起こさせるのであった。そういえば、キューバの都市にはこれまた化石のような50年代のアメ車が溢れていたっけ。僕のような車好きにはたまらない。


タクシーは街のそこここに停車していて、人々は相乗りで自家用車のように利用していた。まさに究極のカーシェアリング。
ハラルの人たちはこうして空色のタクシーで市場へくりだし食料や日用品をたくさん買う。それを屋根の上とトランクに振り分け、最後は自分で抱えて車内に乗り込む。もう404は立錐の余地もない。サスペンションはすっかり縮み切ってしまっている。閉まらなくなったトランクのふたがパタパタと跳ねる。やがて、人と荷物満載で車高が低くなったプジョー404がホイールアーチをタイヤで擦りながら走り出す。
「クルマとは何ぞや?」と改めて考えさせられる僕であった。


2012年10月記



今日の一枚
” 空色のタクシー2 ” エチオピア・ハラル 2012年




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