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サマー・タイム


この写真のビーチは僕の頭の中になぜだか鮮明に印象付けられている。こじんまりとした入江の砂浜は人工的に作ったものだろうか。浜には旅行客らしきビキニの女性たちと家族連れが少々。波打ち際で遊ぶ子供。更衣室と売店が一軒。そう、きちんとライフガードもいた。牧歌的なビーチの隣はセメント工場で巨大なエントツが立っていた。このミスマッチ感が僕に強い印象を植えつけたのかもしれない。なんだか夢の世界にいるような不思議な風景。「サマー・タイム」というジャズのスタンダード曲をふと連想した。なぜだか解らない。これも直感的にだ。



香港の南Y島は「ラムア島」と読むそうだ。恥ずかしながら僕はずっと「南ワイ島」と読んでいた。(この「Y」はいったいどんな日本の漢字になるのだろうか?)
この島、気にはなっていたのだがなかなか行ってみる機会がなかった。その日、香港島中環の埠頭を歩いていた僕は「南Y島行きフェリー」という看板に吸い寄せられるようにふらりと船に乗ってしまった。モダンな高速艇は香港島をぐるっと巻き込むように白波を蹴る。


平日の午後、子供たちが多い。ピクニックかな?と思ったのだが、学校の話をしたり宿題を広げたりテストの答案を見せ合ったりしているところを見るとどうやら学校帰りのようだ。子供たちの顔は多種多様。流暢な英語が飛び交ってなんだか船内は無国籍な空間だ。想像するに彼らは南Y島に住んでいる外国人の子供で中環の学校に通っているといったところだろうか。それにしても、この通学は毎日ちょっとした冒険だ。しかし、波を切って外海を快走する船の中でなかなか楽しそうである。


ソッグ湾という島の南の桟橋に船が着くと、さっきまで船内ではしゃいでいた子供達は瞬く間にどこかに消え去り、あとには桟橋に置かれた通勤用の自転車とけだるい夏の午後の空気だけが残った。島の北側にあるもうひとつの港までハイキングコースを歩くことにする。島は亜熱帯の植物に覆われていて所々に民宿や住居らしき建物が散在する。かなりアップダウンがきついが高台から見渡す海は美しい。


やがて、僕は小さな砂浜に出た。そこでの一枚がこの写真。


そのまま歩くこと4km、やがて眼下に港と小さな集落が見えくる。ヨンシー湾。島の北側の港だ。海鮮料理の店が道の左右にずらりと並ぶ。休日は観光客でにぎわうに違いない。ここから香港島側のアバディーンへのフェリーが出ている。所要30分。実は香港島の目と鼻の先にこの島は浮かんでいる。香港は非常に人口密度の高い場所というイメージが強いけれど、それ以上に人の手が加わっていない自然がたくさんあり保護されている。言い換えれば、休日に息を抜く場所はたくさんある。なんともうらやましい限り。


2012年7月記



今日の一枚
” サマー・タイム ” 中国・香港 2011年




fumikatz osada photographie